原題 | KIDDNAPPING MR.HEINEKEN |
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制作年・国 | 2014年 ベルギー・イギリス・オランダ |
上映時間 | 1時間35分 |
監督 | ダニエル・アルフレッドソン |
出演 | アンソニー・ホプキンス、ジム・スタージェス、サム・ワーシントン |
公開日、上映劇場 | 2015年6月13日(土)~新宿バルト9、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、MOVIXあまがさき 他全国ロードショー |
~社長に貫禄負け、誘拐犯の仲間割れ~
“営利目的”の幼児誘拐は許せない。成人ならいいという訳ではないが、過去“吉展ちゃん事件”はじめ子供の悲劇を知ればそう思う。罪のない幼児がなぜ殺されなければならないのか。犯人から狙われるどんな理由があるのか?
有名企業の要人誘拐は“警戒厳重”だから意外に少ないらしい。ハイネケンは誰もが知る世界有数のビール会社。1983年、社長のアルフレッド・ハイネケン(アンソニー・ホプキンス)と運転手が誘拐されて世間を驚かせた。警察は大組織による犯行を疑うが、誘拐したのは幼なじみの5人組、普通の若者だった…。
コル(ジム・スタージェス)と親友ヴィレム(サム・ワーシントン)たち、幼なじみ5人組は共同経営の建設会社が不況で破産、銀行にも融資を断られ、建て直しへ“一発大逆転”「クソみたいな大金持ち誘拐」=身代金強奪を企てる。地元の名士ハイネケンはドンピシャの標的だった。意外にも彼らは用意周到。当時、活動盛んな過激派の犯行に見せかけるため、拳銃で銀行を襲撃、警察と激しい銃撃戦を繰り広げ、車とモーターボートで逃走。郊外のアジトに監禁部屋を用意し、無線や手錠などの道具も用意した。5人はハイネケンの行動を監視し、社長とお抱え運転手の拉致・監禁に成功する。ちゃんとアリバイ工作までする念の入れようだった。
彼らの誤算は、身代金がなかなか支払われなかったこと。19日経っても返答なく、疑心暗鬼に陥った5人組に亀裂が入り始める…。 一番の驚きはこの対応だ。実話の映画化だから“本当の話”だと思われるが、社長誘拐にも「あえて犯人と交渉しない」策に出るとは…。そのため犯人たちが内部崩壊していくのだから、作戦はまんまとハマったわけだが。
犯罪実話の映画化は数多いが、目立つのは“史上最大の列車強盗”などのアクション型犯罪。手間がかかって面倒くさい“要人誘拐”は珍しい。映画化となると、新聞王ランドルフ・ハーストの孫娘誘拐事件が騒がれたぐらいか。
誘拐映画の手本、黒澤明監督『天国と地獄』(63年)も狙われたのは社長だったが、誘拐した“社長の息子”は勘違いで運転手の息子だったという大誤算。「それでも社長は身代金を払うか」がもうひとつのテーマになった。大会社とは言えない社長が狙われたのは「丘の上の日の当たる邸宅」への怨念だった。崖下の薄暗い家に住む男(山崎努)の犯行決意は、人間「何がどこで恨みを買うか」分からない証だろう。
『天国と~』の社長(三船敏郎)は人間らしく苦悩するが、ハイネケン社長は違った。犯人一味とのやり取りでスケールの違いを見せつける。おっかなびっくりの若造たちと比べて、社長の落ち着き払った態度。部屋着や食事、流す音楽にまで注文をつけ「私が交渉しよう」とまで言うのだから、犯人たちの貫禄負けは明らかだ。ようやく、史上最高額の3500万ギルダーもの大金を手にして大喜びしたのもつかの間、警察の手は近くまで迫っていた…。
ハイネケン社長・ホプキンスの存在感がバツグン。若者を諭すかのようなセリフ「裕福になることは二通り。金を手にいれて大金持ちになるか、大勢の友だちを持つか、両方はあり得ない」という言葉は、犯人たちへ、というより今の若者たちすべてに当てはまる至言だろう。
海外通によると“ハイネケン誘拐事件”は翌84年に日本で起こった「グリコ・森永事件」のモデルとされたという。こちらも社長誘拐に端を発し、毒物混入事件まで起きて日本中を騒がせたのが忘れられない。
(安永 五郎)
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