制作年・国 | 2015年 日本 |
---|---|
上映時間 | 2時間06分 |
原作 | 吉田秋生「海街diary」(小学館「月刊フラワーズ」連載) |
監督 | 監督・脚本:是枝裕和 撮影監督:瀧本幹也 |
出演 | 綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、加瀬 亮、鈴木亮平、池田貴史、坂口健太郎、前田旺志郎、キムラ緑子、樹木希林、リリー・フランキー、風吹ジュン、堤 真一、大竹しのぶ |
公開日、上映劇場 | 2015年6月13日(土)~全国ロードショー |
~三姉妹から四姉妹へ、終わりとはじまりの物語~
ある日突然、きょうだいが一人増えたらどうだろう?舞台は鎌倉。長女の幸に綾瀬はるか、次女の佳乃に長澤まさみ、三女の千佳に夏帆、何ともゴージャスな三姉妹が暮らしているところへ生き別れた父の訃報が届く。姉妹は幼い頃に出奔した父の葬儀場へと向かうが、そこには腹違いの妹がいた・・・。
原作は2013年度マンガ大賞を受賞した吉田秋生氏の同名コミックで現在も月刊フラワーズにて不定期連載中。原作に惚れ込んだ是枝監督が映画化を熱望し、実現。今月14日のカンヌ国際映画祭の公式上映では、観客にスタンディングオベーションで迎えられた。
子どもを撮ることに定評のある監督が今回起用したのは広瀬すず。子どもと大人の端境期にある“揺れ”を瑞々しくみせた。すずが同級生たちと紅葉のなかをそぞろ歩くシーンでは、上空から捉えた木々の葉影がまるで宝石のように煌いている。はじめはそれとわからないが、カメラが上空から徐々に降りて少女らの頭上をかすめ地上に下りたとき、その煌きの正体が落葉だとわかる。一瞬の光を捉えながら、子どもから大人へと移り変わろうとする思春期の子どもらをスクリーンに映し出すとき、その両方のはかなさと美しさに、思わず涙ぐみたくなる。
葬儀の後、見送りに来たすずに長女の幸が声をかける。「一緒に暮らさない?」そして、女4人の風変わりな共同生活がはじまる。2004年公開の『誰も知らない』でも子どもだけで生活する兄弟が登場するが、両者の暮らしぶりは対極である。もっともあちらは12歳の少年が筆頭の幼い兄弟であり、こちらは末っ子が14歳。設定も事情もまったく異なるので当然と言えば当然だが、連想する人は少なくないのでは。そんな人にこそぜひ観てもらいたい。ここには、その赦しと癒しがある。
すずが所属するサッカーチームのメンバー(前田旺志郎)、喫茶店のマスター(リリーフランキー)、定食屋のおばちゃん(風吹ジュン)、姉妹の恋愛模様、さまざまなエピソードを織り込んで、季節は移りゆく。実際、鎌倉の四季を撮るため撮影は1年に及んだ。
物語の終盤、三人姉妹の母親(大竹しのぶ)が登場すると流れが変わる。彼女はいつだって穏やかな日常に波紋を呼ぶ存在だったのだろう、とたんに長女の幸の表情も険しくなる。幸はすずにかつての自分を見たのにちがいない。すずに姿を変えた幼い自分に手を差し伸べたとき、彼女のなかの少女は去り、等身大の自分になれた。と同時に幸とケンカばかりしているサバサバした次女の佳乃やあっけらかんと明るい三女の千佳、それぞれにも新しい風が吹き抜け、すずも自分の居場所を見つける。
高波もやがては凪いで、きらきらと水面を照らす陽光のなかで溶けてゆくように。終わりと始まりはいつも隣り合わせだ。何かを失ってもまた生まれる何かがある。そして、人生は揺るぎなく続いてゆく。ラストシーンにはそんな静かな祈りが感じられる。
(山口 順子)
公式サイト⇒ http://umimachi.gaga.ne.jp
©2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ