制作年・国 | 2015年 日本 |
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上映時間 | 1時間30分 |
監督 | 村橋明郎 |
出演 | 佐藤B作、中西良太、斉藤陽一郎、西歩美、村田一晃 |
公開日、上映劇場 | 2015年6月13日(土)~K’cinema、7月11日(土)~シネ・ヌーヴォX、近日~元町映画館、京都みなみ会館 にて公開 |
★取り調べ室で見出した“生きる希望”
密室内のセリフ劇に引き込まれる。登場人物は刑事2人と殺人事件の被疑者が1人。計3人だけの、のっぴきならないドラマに「生きることの過酷さ」が滲んだ。場面は取り調べ室と警察の廊下だけ。地味だけど凝縮されたドラマは胸に突き刺さった。
部屋の外はほぼ全編雨。そこへ、妻と息子を殺した容疑で男(佐藤B作)が連行されてくる。テレビの刑事ドラマなら「これからネタ割れ=クライマックス」というところだが、まずは取り調べに当たる刑事の“家庭の事情”から始まる。ベテラン刑事(中西良太)は、妻が母親の介護疲れから鬱に陥り「今日は早く帰って」と約束させられる。若手刑事(斉藤陽一郎)も「母親のために実家に行く」必要がある。彼は午前4時まで働き、数時間後の仕事再開に「警察がブラック企業だったとは」とグチをこぼす。被疑者も刑事も同じ「厳しい生活を生きる人間」という立場が明瞭だ。
被疑者の男はいきなり「お願いだから私を死刑にして下さい」と懇願する。ベテラン刑事は被疑者を落ち着かせ「何が起こったのか、話して」と、自分の家庭の事情を打ち明ける。「はぐれ刑事純情派」の藤田まことは型破りな人情刑事として茶の間の人気を集めたものだが、ここまで弱点をさらけ出す刑事は珍しい。 今、格差社会は深刻でも「食うに困る」まではいかない“総中流”時代、最大の悲劇はどうにもならない「病」だろう。被疑者が“殺した”のは妻と息子。可愛い息子は2歳から発育が止まった発達障害児、何も出来ない子供だが、親には当然“天使のように”可愛い。
だが、四六時中気が休まる時がない妻は疲労困憊、疲れ果て、鬱状態に陥って時折「死にたい」と漏らすまでに。被疑者の夫は妻と息子のため、長年勤めた印刷会社も辞め、妻と息子のために生きる。こんな男が殺人なんて…。事情を聞いて「どうにもならない」男の実情を察知した刑事は、あえて生きていく道を指し示す…。
これが4本目の村橋明郎監督は「(中西さんの)シナリオを読んだ時は暗い話だなと思ったが、何年かして何気なく読み返し“いけるな”と閃いた」という。長く映画に関わってきた監督の勘か。「脚本を何度も練り直し、行き詰まって諦めようとしたこともあったが最後の手段として、回想シーンを全部カット」して、確信を得た。佐藤B作さんからすぐに「やりたい」と返事があったが、彼は「刑事役」のつもりだったそうだ。
カメラ2台で2日、正味12時間で撮ったという。「配給以外はほとんど一人でこなした」“自主製作映画”に満足感を漂わせた。
今の日本映画界について「テレビ局や大きな事務所が力を持ちすぎているのでは」とさりげなくポツリ。「(テーマを)大上段に言いたくはないが、極限状況の中で、少しでも希望を伝えることが出来たら」。村橋監督にとっては映画製作そのものが“極限状況の中の希望”だったのかも知れない。
(安永 五郎)
★K’cinemaサイト⇒ http://www.ks-cinema.com/movie/arutorisirabe/