原題 | THE TRIBE |
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制作年・国 | 2014年 ウクライナ |
上映時間 | 2時間12分 |
監督 | ・脚本:ミロスラヴ・スラボシュピツキー |
出演 | グリゴリー・フェセンコ、ヤナ・ノヴィコヴァ他 |
公開日、上映劇場 | 2015年4月25日(土)~テアトル梅田、シネマート心斎橋、5月9日(土)~元町映画館、近日・京都シネマ他全国順次公開 |
受賞歴 | カンヌ国際映画祭2014批評家週間グランプリ |
~静寂の中、少年と少女の喘ぎ、魂の呻きがこだまする~
ウクライナ映画というだけでも珍しいのに、本作は全編手話で字幕もない。1シーン1カットで台詞のない映像をドキドキしながら全神経を集中させて観るという体験は、サイレント映画ならではの快感だ。そして、そこで繰り広げられている少年少女たちの激しく生々しい日常描写は、今まであまり描かれたことのないろうあ者の世界を露わにし、正に衝撃的だった。ウクライナのミロスラヴ・スラボシュピツキー監督が、全員オーディションによるろうあ者のキャストで作り上げた意欲作。ろうあ者の学校に根を張る闇社会で生きる少年少女たちの欲望や性から、彼らの生への強い欲求を感じずにはいられない。
セルゲイ(グリゴリー・フェセンコ)は、ろうあ者専門の寄宿学校に入学するが、品の良い保護者と生徒がいた入学式とは裏腹に、悪の組織、族(トライブ)によって支配されていた。セルゲイも手荒い洗礼を受けるが、腕っぷしが強いセルゲイは、次第に認められ、売春の送迎を担当するようになる。リーダーの愛人、アナ(ヤナ・ノヴィコヴァ)を毎日送迎するうちに、セルゲイはアナを愛しはじめ、お金を渡して関係を持つようになるのだが・・・。
セルゲイたちが属するトライブの悪の連鎖の数々が、廃墟のような街で次々に繰り広げられる。リンチ、ゆすり、売春、それらの温床となっている寄宿学校で、ケンカ腰の手話のやり取りが火花を散らし、時には数人がかりでボコボコに殴られる。普通だと大きな効果音と共に誇張されるシーンだが、そこにある本当の音は実に静かで、鈍い音を放つのみ。まさにろうあ者の生きている世界と同じ世界を、観ている者も体験していく。
なぜ売春までしてアナがお金を稼ごうとしているのかは、まさにウクライナの今の状況を映し出している。イタリアに旅立つために身を粉にしたアナと、アナに恋をし、貢ぐことで関係を持ち続けたセルゲイ。倉庫のような場所で二人がセックスするシーンは、冷ややかなモノトーンの場所に生身の裸体が重なり、そのフォルムが美しい。人が悦びを表現する喘ぎがこんなに大きな音なのかと思うぐらい、印象に残る。ここからラストにかけては、セルゲイにもアナにも不幸な出来事が重なり、静寂は打ち破られていく。セルゲイの内なる怒りが爆発するとき、そこで発せられる音にも驚くはずだ。殺伐とした狭い世界で、自分の居場所を見つけ、ささやかな夢を持ち、傷だらけになりながら生きているセルゲイたちの姿を観ていると、最後には彼らがろうあ者であることを忘れるぐらいだった。サイレント映画にオマージュを捧げたというミロスラヴ・スラボシュピツキー監督の挑戦は、私たちに全く新しい映画体験を与えてくれたのだ。(江口由美)
公式サイト⇒http://thetribe.jp/
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