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『予告犯』

 
       

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作品データ
制作年・国 2015年 日本 
上映時間 1時間59分
原作 筒井哲也「予告犯」(集英社YJCジャンプ改)
監督 監督:中村義洋  脚本:林民夫
出演 生田斗真 戸田恵梨香 鈴木亮平 濱田岳 荒川良々
公開日、上映劇場 2015年6月6日(土)~全国東宝系にてロードショー

 

 ~ネット時代、若者の“行き場なき犯罪”~

 

現代を生きる若者は大変だと思う。将来展望なく、時間はあっても「やりたいことが何もない」。閉塞感いっぱいの時代を映し出した犯罪映画が筒井哲也原作、中村義洋監督『予告犯』だ。5人の若者がネット動画で犯行を予告して世間を騒がせる。昨今、映画では無気力、無目的な若者像が目立つが、彼らには「何かやる気」はあった。ことの是非はともかく…。


ネット会社で懸命に働く派遣社員ゲイツ(生田斗真)は「3年で正社員に」という約束を、直前で社長から反故にされ、翌日から掃除係に。職場の仲間たちから冷笑される。仲間や同僚が表向き、擁護、同情しながら、正反対の本音「ツイッター」文字、文章でたたみかけるあたりが“ネット主役”映画らしい。中村監督は『白ゆき姫殺人事件』と同じ手法で、冒頭から“派遣切り”という深刻な社会問題を突き付ける。
 

「かわりの職場を」と訪ねた職安では、履歴書の空白を問いつめられ、誘われて手っ取り早く稼げる日雇い労働者に。底辺まで落ちたところで、友だちのいなかった彼はようやく“気の合う仲間”と出会う。社会の吹きだまりに集まった仲間は、現代若者群像の縮図のようだ。元議員事務所の“サクラ業”メタボ(荒川良々)、元バンドマンのカンサイ(鈴木亮平)ニートのノビタ(濱田岳)にフィリピンから日本人の父親を探しに来たヒョロ(福山康平)。パソコンに詳しいゲイツを中心とする5人組は、世間を騒がせようと“でっかい仕事”を企む。


ネット動画の投稿サイトに「シンブンシ」と名乗って“正義の裁き”を実現しようとする。食中毒事件を起こした食品加工会社で火事を起こしたり、飲食店でゴキブリを揚げる様子を投稿したお騒がせアルバイトの監禁映像をアップしたり、強姦事件を起こした男子大学生に「元気玉」を注入したり…。正義の裁きというにはショボいが、犯行を擁護、支持する声が高まるにつれて彼らの犯行予告はエスカレート。ネットへの「書き込み規制法案」提出を示唆した国会議員の設楽木(小日向文世)に、シンブンシは「24時間以内に抹殺する」と予告。これには警察も本腰をあげる。


ネット時代の身近な“予告犯罪”。先頃も商品に異物混入する自分の動画を投稿して、逮捕される幼稚な事件があったが、要人脅迫となればお遊びでは済まない。サイバー犯罪対策課の女刑事・吉野絵里香(戸田恵梨香)は「絶対許さない」と執念を燃やして“シンブンシ”を追いかける。世間を騒がせる“劇場型犯罪”は84、85年の「グリコ・森永事件」が有名だが、犯人は騒がせるのには成功したものの、身代金を奪うことは出来ず、何が目的だったのかは、今もって不明。


「予告犯」5人組には“吹きだまり”ならではの正義感があったはず。だが、ネットカフェで犯人を見つけた吉野刑事は徹底的にゲイツを追い、下水道まで追い詰めて力尽きるが、どこかにいるゲイツに「甘えるんじゃないよ。神にでもなったつもり?」と罵倒する。実は彼女は、東大出のエリート刑事だったが「小学校時代に給食費が払えなくて、いじめられた子だって、頑張って社会人になった子もいる」と追い打ちをかける。ゲイツは、マンホールの中から「あなたには分からない」と力なく言い返す。


このやりとりが映画『予告犯』の主張か。格差の拡大、不公平社会の実情…吉野刑事が言うように「頑張ればいい」のも確か。「あなたには分からない」のかどうか…。これまで、日本映画は様々な犯罪を描いてきたが、それは黒澤明監督『天国と地獄』(63年)のように貧しさが根底にあった。『予告犯』たちも“どん底に落ちた”男たちだったが、最後に明らかになる動機はきわめて意外なものだった…。

(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://www.yokoku-han.jp/

(C)2015映画「予告犯」製作委員会 (C)筒井哲也/集英社

 

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