原題 | Elephant Song |
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制作年・国 | 2014年 カナダ |
上映時間 | 1時間40分 |
原作 | 原作・脚本:ニコラス・ビヨン |
監督 | シャルル・ビナメ |
出演 | グザヴィエ・ドラン(『トム・アット・ザ・ファーム』)、ブルース・グリーンウッド(『スター・トレック』)、キャサリン・キーナー(『カポーティ』)、キャリー=アン・モス(『マトリックス』)、コルム・フィオールドン、ほか |
公開日、上映劇場 | 2015年6月6日(土)~新宿武蔵野館、渋谷アップリンク、6月13日(土)~シネ・リーブル梅田、近日~京都シネマ、元町映画館 ほか全国順次公開 |
~心の奥でこだまする,あの時のゾウの歌~
グザヴィエ・ドランは,劇作家ニコラス・ビヨンの戯曲を読んで,すぐマイケル役に恋をしたという。マイケルがグザヴィエに憑依したような迫力で,彼の演じるマイケルの姿を見るだけで十分その心の闇がスクリーンを超えて伝わってきた。ストーリー展開は,監督の言うとおり「まるでロシアのマトリョーシカを思わせる入れ子構造」になっている。これにより多重的で上質なサスペンスが醸成され,マイケルの抱える闇が一層深くなった。
監督は,戯曲の映画化に当たり,グリーン医師の役柄を掘り下げ,ピーターソン看護師長を彼の前妻に設定し,新たに妻オリビアとローレンス医師を登場させたそうだ。グリーンは,ピーターソンが湖に連れて行ったときに娘レイチェルを事故で失い,自分と一緒だったら死ななかったという思いに囚われている。オリビアとの間もぎくしゃくしている。この脇筋の必要性はともかく,これによって物語に深みと幅が生まれたことは間違いない。
マイケルは,オペラ歌手の母親にとってアフリカ旅行中のアヴァンチュールで1947年に生まれた“望まぬ子”だった。彼は,14歳のとき家に帰ると床に倒れていた母親を”殺した”と,グリーンに話す。ゾウの歌に込められたマイケルの暗くて深い哀しみは,次第に彼の全身に広がり,心までも侵食していた。そして時代は1966年となり,ピーターソンの危惧した事件が起きてしまった。その”深層“が明らかにされる過程が実にスリリングだ。
聖クリスティーナ精神病院でのローレンスの失踪事件の真相を解明するため,彼が最後に診察した入院患者マイケルにグリーンが探りを入れた。数週間後,その日の状況を理事長がグリーンとピーターソンに聴取する。2つの場面を巧みに交錯させることで眩惑的な面白さが生まれた。そして,マイケルのローレンスとの歪んだ関係を経て,その心の底深く沈潜した母親像に行き着き,壮絶な孤独感を浮彫にする。その痛みがひしひしと伝わる。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://www.uplink.co.jp/elephantsong/
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