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『ラン・オールナイト』

 
       

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作品データ
原題 RUN ALL NIGHT 
制作年・国 2015年 アメリカ 
上映時間 1時間54分
監督 監督:ジャウム・コレット=セラ『アンノウン』 脚本:ブラッド・イングルスビー『ファーナス/訣別の朝』
出演 リーアム・ニーソン(『シンドラーのリスト』『フライト・ゲーム』)、エド・ハリス(『アポロ13』『ポロック 2人だけのアトリエ』)、 ジョエル・キナマン(『ドラゴン・タトゥーの女』『ロボコップ』)
公開日、上映劇場 2015年5月16日(土)~全国ロードショー

 

★マフィアに警察…全NYを敵に回して!


周りすべてが敵になるなんて、これ以上のドツボはない。そんな極限状況で能力全開出来るこのオヤジ、少子高齢化で年食ったヒーローが増える中、彼は間違いなくピカイチだ。リーアム・ニーソン、北アイルランド出身の62歳。アクションのキレ味は抜群!
 

RAN-4.jpg引退間近の酔いどれ男、かつては恐れられた殺し屋ジミー(リーアム・ニーソン)の人生は「後悔でいっぱい」だった。これまで下してきた“決断”は今では悪夢。彼のバックにはマンハッタンを仕切る北アイルランド系マフィアのボス、ショーン(エド・ハリス)がいる。二人は同じ過去を生き、深い絆で結ばれていたが、ちょっとした歯車のズレから、敵対するハメになる。ジミーは息子のマイク(ジョエル・キナマン)が撃たれる寸前、敵を殺す。相手はあろうことか、ショーンの一人息子ダニーだった。
 

RAN-2.jpg  「血よりも濃いマフィアの絆」を断ち切ってしまったジミーに何が待っているのか。「お前も息子も、息子の家族も、みんな殺す」とショーンから報復を宣告され、警察もまた非常線を張って逮捕に躍起。かくしてNY市内でマフィアと警察、一般人までが入り乱れての大逃走劇=追跡劇が始まる。追いつ追われつの目まぐるしい展開は一瞬も目を離せない。だが、マフィアのボスも殺し屋もともに人の親。突き詰めれば、映画は二人の“親バカ合戦”か。ボスのバカ息子は親の言うことを聞かず、ジミーの息子マイクに殺し屋を差し向ける。これが発端で、ボスは殺された息子の報復に一家の総力をあげる。


RAN-3.jpg一方マイクは、妻と二人の娘に恵まれ、父親とは違い、真面目な道を歩んでいた。ジミーは自分の世界から遠ざけるため、何年も音信不通に。それが突然の異変、オヤジに命を救われ、マフィアや警官から逃げ回ることになったのだからたまらない。ジミーの親心など分かる訳がない。  凄まじいカーチェイスに殴りあい、加えて、ジミーたちの情け容赦ない銃撃には舌を巻く。無造作に敵を撃ち殺す描写は最近のガン・アクションでも出色だ。  もの凄いアクションでも圧倒的な存在感を発揮する男リーアム・ニーソン。苦みばしって苦悩を湛えたマスクは、息子のために数々の困難に立ち向かう父親にぴったりだ。
 

リーアムの代表作はご存じスティーヴン・スピルバーグ監督『シンドラーのリスト』(93年)。アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされた。だが、そんな勲章よりも自分を発見したのか、キャリアも半ばを過ぎた08年、『96時間』を皮切りにアクション俳優に転じた格好だ。逆ならともかく、こんなスターも珍しい。最近は好調シリーズ『96時間』(3作)のほか、同じくコレット=セラ監督『フライト・ゲーム』(14年)でも1万メートル上空で孤立無援に陥る航空保安官役を演じており、周り全部が敵という逆境が実によく似合う。

 


 

★「家族を守るために」体張るオヤジって?


マフィア映画の原点は有名な『ゴッドファーザー』(72年)だが、この映画(三部作)は壮大な“家族映画”でもあった。大ヒットした第一作で、三男(マイケル=アル・パチーノ)は堅気の道を歩もうとしていたが、ファミリーのボス、ドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)が襲撃されたことから、執拗な敵の攻撃から守るため、懸命に父親のベッドを移動させる。血の気の多い長男(ジェームズ・カーン)が殺されて、マイケルが跡を継ぐことに。愛妻をも閉め出して“家族会議”を始めるラストシーンがテーマを見事に現していた。
 

アカデミー賞(作品賞、監督賞)を受賞した『~PARTⅡ』(74年)はシチリアから米国に渡ってきた若きコルレオーネ(ロバート・デ・ニーロ)一家が「家族を守るために」ファミリーとして勢力を伸ばしていく姿と、二代目ドン、マイケルの戦いぶりを交互に織り込んで、裏社会の過去と現在を重層的に描いた。  あれから半世紀、マフィアの現状は分からないが、この映画ではコルレオーネ時代とは相当異なるようだ。組織がジミー一人に手ひどくやられるのは勢力の衰えか。ジミーは何度かボスに電話で「もうやめよう」と交渉するものの、断固“報復”を主張する相手に、意を決したジミーが最後は単身、敵の巣窟に乗り込む。さながら任侠映画のテイストだ。
 

だが、根底を貫くのは「家族を守るために体を張って戦う」父親像。『ゴッドファーザー』から続く“移民一家”の血の結束を痛いほど感じさせた。

 (安永 五郎)

公式サイト⇒ http://run-allnight.jp

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