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『パプーシャの黒い瞳』

 
       

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作品データ
原題 PAPUSZA 
制作年・国 2013年 ポーランド 
上映時間 2時間11分
監督 監督・脚本:ヨアンナ・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ
出演 ヨヴィタ・ブドニク、ズビグニェフ・ヴァレリシ、アントニ・パヴリツキ
公開日、上映劇場 2015年4月18日(土)~第七藝術劇場、4月25日(土)~京都シネマ、5月16日(土)~神戸アートビレッジセンター

 

~言葉を愛したがゆえに深い悲しみを背負った女性詩人~

 

エンドロールで流れる美しい歌から、つくり手の映画に込めた思いが、パプーシャへの敬慕の想いがあたたかく優しく伝わってきた。
 

papusza-3.jpg実在のジプシーの女性詩人、ブロニスワヴァ・ヴァイス、愛称パプーシャの人生を、ポーランドの激動の歴史の中で描く。ジプシーは書き文字を持たないが、パプーシャは小さな頃から言葉や文字に魅かれ、町の白人女性に読み書きを習う。秘密警察から逃れるためジプシーとともに数年を過ごした青年詩人イェジは、パプーシャの才能を見出し、別れ際、詩を書いて送るように言う。15歳で、父親ほど年の離れた音楽家と結婚させられたパプーシャにとって、ほのかな恋心を抱いたイェジに、貧しくつらい日々の暮らしの中で感じた思いを言葉にして綴り、送ることは、一つの生きる支えになっていた。しかし、イェジが、パプーシャの詩とジプシーについての本を出版したことから波紋が広がる。外部に秘密をもらさないという掟を破ったとして、パプーシャは精神を病み、夫とともにジプシー社会から追放されてしまう……。
 

papusza-2.jpg天賦の才に恵まれながらも、ジプシーという差別され辺境に追いやられた少数民族と主流社会との狭間に立たされ、深い悲しみを背負わざるを得なかったパプーシャ。読み書きを習わなければ幸せになれたかもしれない。でも、言葉に魅かれ詩をつくることに喜びを見出したパプーシャがいたからこそ、私達は、彼女の詩を通じて、ポーランドの美しい自然やジプシーの暮らしに思いを寄せることができる。映画は、時間の経過とともに順に追うのではなく、時代を行きつ戻りつ、年代を交錯させて描く。初めは少し戸惑うが、パプーシャの感情に寄り添った構成で、説明的な表現を一切省き淡々とした脚本により、パプーシャの体験が丁寧に描き出されていく。
 

戦後、社会主義政権下のポーランドで、ジプシーは定住を強制される。パプーシャが生きた1910年から80年代までの間、様々な迫害や差別を受けながらも、ジプシーたちがどんな暮らしをしてきたか。川べりにテントを張り、移動を続けながら暮らす様子を、本物のジプシーの人々が出演し、当時の世界を再現。パプーシャと夫とイェジの3人の俳優は1年かけてロマニ語を修得。監督のジプシー文化への思いがあふれる。

papusza-5.jpg幌馬車を連ね、キャラバンを組んで平原や森林を進んでいく光景をロングショットの長回しでとらえた映像がひときわ美しい。全編モノクロームで、陰影に富んだ映像が、物語に深みを加え、メロディアスな音楽により、叙情詩のような世界へと誘う。雪景色の中、過酷な寒さに倒れた馬の姿は、厳しい自然の非情さをも伝える。ヨーロッパ社会におけるジプシーのありようについて知る上でも必見の一本。

(伊藤 久美子)

公式サイト⇒ http://www.moviola.jp/papusza/
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