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『間奏曲はパリで』

 
       

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作品データ
原題 La Ritournelle  
制作年・国 2014 年 フランス 
上映時間 1時間39分
監督 監督・脚本:マルク・フィトゥシ
出演 イザベル・ユペール、ジャン=ピエール・ダルッサン、ミカエル・ニクヴィスト、ピオ・マルマイ
公開日、上映劇場 2015 年4月4日(土) ~角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、 テアトル梅田、京都シネマ、5月9日(土)~塚口サンサン劇場 他全国順次公開

 

~主婦ブリジッドがしたこと――
それはパリ・アヴァンチュールの小旅行だった~

 

kansoukyoku-6.jpg『主婦マリーがしたこと』『ボヴァリー夫人』『ピアニスト』『ヴィオレッタ』などシリアスでエキセントリックな怪演で知られるイザベル・ユペール(62)が、倦怠期を迎えた酪農家の主婦をこの上なく意地らしく演じて、今まで見たこともないキュートさで魅了する。あのイザベル・ユペールが普通の田舎のおばちゃんを演じるなんて!? ドロドロの不倫ものか殺人事件でも起こりそうな雰囲気だが、それが面白いほど期待を裏切ってくれる逸品だ。クールな表情の彼女が見せる「私って無用の存在?」「私ってまだまだイケてる?」「私の価値観っておかしい?」と理解されない女の焦りが何とも可愛らしく、切ないほど共感を呼ぶ。


そして、日常からちょっと離れて、夫に嘘をついてパリへのアヴァンチュール小旅行へと洒落込む。パリの観光名所を満喫するだけではなく、若者の残酷な仕打ちに遭ったり、外国人男性とのロマンスがあったりと様々なことを体験する。一方、妻の気持ちを受け止められなかった夫の焦りと不安は、それまでの価値観を覆すほどの思いがけない感情を呼び起こす。それらは夫婦の絆を再認識する幸せへのステップアップとなり、見る者すべてに温もりのある感動をもたらしてくれる。


kansoukyoku-5.jpg2014年のフランス映画祭で上映された本作は、観客の圧倒的支持を得て、2015年4月4日(土)にようやく公開される。繰り返し見たくなるような、宝物にしたいような映画だ。こんなにも、笑ってドキドキしてしんみりして感動する熟年カップルの映画にハマってしまうとは!?  脚本も手掛けた若きマルク・フィトゥシ監督の、ちょっと問題を抱えた人間を優しい眼差しで見守る姿勢がいい。そして、何よりイザベル・ユペールの意外な魅力と、『ル・アーヴルの靴みがき』『キリマンジャロの雪』でも味のある存在感を示したジャン=ピエール・ダルッサン(62)の無骨ぶりが、何とも微笑ましい。


 【STORY】
kansoukyoku-2.jpgノルマンディーで酪農を営むグザヴィエ(ジャン=ピエール・ダルッサン)とブリジッド(イザベル・ユペール)は、子供も巣立った熟年夫婦。特産牛の品評会ではチャンピオン受賞の常連だが、家業を継がずトランポリンを専攻している息子にご不満のグザヴィエ。だがブリジッドは、「息子の夢は応援すべきだ」と理解を示し、「新しもん好き」の好奇心旺盛な可愛い美人さん。二人は農業高校で知り合い、皆が近代農業を目指す中ブリジットだけが「羊飼いになりたい」と童話の世界にしか登場しないような職業を口にしたという。「ユニークで個性的で、肝が据わっていた」ブリジッドに一目惚れしたグザヴィエだったのだ。


kansoukyoku-7.jpgある日、隣の家に姪が大勢の友人を連れて来て、ブリジッドはその中のスタンという25歳の青年に久しぶりのトキメキを感じる。パリのアパレル店で働いているというスタンは、本を持ち歩く読書家で、若い女の子よりブリジットとの会話を楽しむ。かねてより湿疹に悩まされていたブリジッドは、パリの医者に診療してもらうと嘘を言って、2泊3日の小旅行に出掛ける。勿論スタンに逢うのが目的。やっと探し出した彼が働くお店では、「ついでに寄ってみたの」ととぼけたフリ。だが、ステキだと思っていたスタンのイメージはことごとく崩れ落ち、結局若者特有の冷たい仕打ちを受けてしまう。


kansoukyoku-3.jpgだが、「捨てる神あれば拾う神あり」で、同じホテルの宿泊客のデンマーク人ジェスパー(ミカエル・ニクヴィスト『歓びを歌にのせて』『ミレニアム』シリーズ)と意気投合し、パリのナイトツアーへと繰り出す。その様子をブリジッドの嘘に気付いてパリにやって来たグザヴィエに目撃されてしまう。妻の不倫を確信したグザヴィエは、傷心のままパリ近郊の息子の学校へ行き、トランポリンを使った息子の演技を初めて見る。今までバカにしていたトランポリンの演技にいたく感動したグザヴィエ。それはそれはハッと息をのむパフォーマンスで、胸を熱くする感情がこみ上げる。グザヴィエはそれまでの自分の周囲への無理解や保守的な言動が、如何に妻や息子を傷付けていたかに気付く。


グザヴィエは、ブリジッドを駅まで迎えに行き、その足で海辺のレストランへ連れて行く。だが、何くわぬ顔で帰ってきたブリジッドへの怒りより、ブリジッドに捨てられるのではという不安で何だか落ち着かない。果たしてこの二人の行く末は?


 
口下手なグザヴィエが精一杯愛情を示すシーンがいい。湿疹に悩むブリジッドのため、グザヴィエがプレゼントしたものとは? グザヴィエが不安を抱える中、オルセー美術館の中で出会った羊飼いの絵の前でしばらく佇む様子がいい。その絵は後に、ブリジッドがグザヴィエの愛に気付く重要なポイントとなる。二人の気持ちが重なるような静けさの中のラストシーンがまたいい!

 
イザベルがパリでも被っていたロシア風の毛皮の帽子が可愛い。イギリスに近いノルマンディー地方らしく、タータンチェックのポンチョやジャケットなども、裕福な農家の余裕を感じさせる。ブリジッドが気にする湿疹やエイジングもすべて受け入れてくれたデンマーク人のジェスパーのキャラもいい。ジェスパーがブリジッドを部屋に招き入れ、『ストックホルムでワルツを』で日本でもおなじみとなったモニカ・ゼタールンドの歌を聴かせるあたりもシャレている。何か悲しみを心に秘めた様子のミカエル・ニクヴィスト(54)の演技もさすがだ。


何やかやと愚痴ってみても、長年連れ添った夫婦にしか分からない楽しみや喜びがあるはず。それらを共有できた時こそ幸せを実感できるというもの。いま一度、お互いのいいところを見つめなおし、楽しかった思い出を思い起こしてみては如何でしょうか。 えっ!? 「 いいところも見つからなければ、思い出すと腹立つことばかり!」 という方は、せめてこの映画の中だけでも幸せを感じて頂きたいです、はい。

(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://kansoukyoku-paris.jp/

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