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『Mommy/マミー』

 
       

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作品データ
原題 MOMMY
制作年・国 2014年 カナダ 
上映時間 2時間18分
監督 グザヴィエ・ドラン(『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』)
出演 アンヌ・ドルヴァル、アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン、アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン
公開日、上映劇場 2015年4月25日(土)~新宿武蔵野館、シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、5月2日(土)~シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国順次公開
受賞歴 カンヌ国際映画祭審査員特別賞
 

~精一杯お互いを思う母と息子、愛ゆえの決断は~

 
なんとも豪快、痛快で、全力で息子と対峙している母親の姿に圧倒されながら、意外と私自身とも共通点があることに気付く。40代半ばで15歳の息子がいることも、豪快にワインを飲みながら食事を作るのも同じだし、そして息子がちょっと問題を抱えているというのも、実は同じだ。障がいを抱えた人物を描く映画は多々あれど、発達障害の一つである多動性障害(ADSD)を持つ子どもをここまで真正面から描いた作品はなかなかない。『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』と作品ごとに進化を遂げ続けるカナダの若き才能、グザヴィエ・ドラン監督最新作。自身の永遠のテーマである母、そして息子を題材に、隣人の女性との関係も交えながら万華鏡のように変化するそれぞれの心情を見事に映し出した。ぶつかり合う母と息子の痛々しくもエネルギーに満ちた姿が、激しく胸を突く。
 

 

Mommy-1-3.jpg2015年架空のカナダ、問題を抱える子を持つ親が経済的・身体的・精神的な危機に陥った場合、法的手続きを経ずに施設に入院させる権利を保障したS-14法案が可決される。夫の死後、ギリギリの生活を送っていたシングルマザーのダイアン(アンヌ・ドルヴァル)は、矯正施設を退所した多動性障害の息子、スティーヴ(アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン)と再び二人暮らしを始める。感情の波があるスティーヴを扱いあぐね、仕事との板挟みでナーバスになっていたダイアンは、隣家の高校教師カイラ(スザンヌ・クレマン)と交流を重ねるようになるが・・・。
 
 

 

Mommy-1-2.jpg奔放なダイアンと、深い喪失感から神経衰弱となり吃音気味だったカイラ。一見正反対の性格の二人だが、スティーヴの面倒を一緒にみるうちに、お互いが唯一無二の存在となっていく。意気投合した3人の姿が、グザヴィエ・ドラン独特の映像美によってキラキラと輝く。本作はアスペクト比が1:1のInstagramやCDジャケットサイズの画面だが、余計なものが映り込むことなく、画面いっぱいに映る登場人物たちに意識を集中でき、その一瞬の表情がどれも胸に焼き付く。またただの視覚的効果だけではなく、総合的な状況判断が難しい発達障害を持つ人の、通常の人より狭い視界をも表現しているのではないか。ダイアンやカイラが自転車で追いかける中、スティーヴがスケボーで道を滑りながら「ぼくは自由だ」と両手を押し広げるのと同時に、正方形の画面がぐいっと広がる。スティーヴの心の解放を画面の大きさの変化で鮮やかに表現し、こちらもなんともいえない解放感に包まれた。とても心に残るシーンだ。
 

 

Mommy-1-4.jpg母を愛するが故に、問題を起こすスティーヴだが、そこにはきちんと理由がある。スティーヴが感情の限界点に達するまでの過程も丁寧に描写。なだめることに必死で、手におえないと愕然とするダイアンと気持ちを分かってもらえないスティーヴ、それぞれの切なさが交差する。誰よりも母が好きなスティーヴは、母以外に愛を注げる人などいない。その一途さや純粋さ、その裏にある狂気を演じきったアントワーヌ・オリヴィエ・ピロン。タフな状況を必死で乗り越えようとするダイアンをファンキーかつ絶妙のヨレ感で演じたアンヌ・ドルヴァル。そしてダイアン母子と接することでどんどん自分の殻を破っていったカイラ演じるスザンヌ・クレマンと、3人の演技のアンサンブルも見事だった。この激しくも愛情に満ちた母と息子にどんな運命が訪れても、希望の灯は消えないはず。陽光に満ちた映像が、私をそんな気持ちにさせてくれた。(江口由美)
 
公式サイト⇒http://mommy-xdolan.jp/
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