原題 | A SYMPHONY OF SUMMITS THE ALPS FROM ABOVE |
---|---|
制作年・国 | 2013年 ドイツ |
上映時間 | 1時間33分 |
監督 | ピーター・バーデーレ、ゼバスティアン・リンデマン 撮影:クラウス・シュトゥール |
出演 | ナレーション:小林聡美 |
公開日、上映劇場 | 2015年4月25日(土)~テアトル梅田、5月16日(土)~シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国順次公開 |
~空からとらえる美しきアルプスの全貌と、人間による「開発」の傷跡~
テレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』世代の私にとって、アルプス=スイスいうイメージが強く、長い間いつかは行ってみたい憧れの場所だった。遥か昔の新婚旅行で、スイスアルプスのマッターホルンを間近で見たり、宿の風呂場の窓からアイガー北壁が見えたのをうっとりと眺めたときの感動は、実際に頂上まで登った訳ではなくても、格別なものだった。本作は、スイスをはじめ、ドイツ、オーストリア、フランス、イタリア、スロベニア、リヒテンシュタインと7か国におよぶアルプス山脈を、空から激写。頂上まで登った人しか味わえない景色を味わえるだけでなく、もっと俯瞰した「アルプスの今」を我々に伝えている。そこには、何万年も変わらぬ姿もあれば、人間によって変えられてしまった姿が痛々しく露わになっているのだ。
昨年末に公開された台湾の空撮ドキュメンタリー『天空からの招待状』でも、空から見る台湾は絵画のように美しかったが、アルプスの魅力はなんといっても何万年も溶けずにそこにある真っ白な氷河だ。時には稜線を歩く人の姿まで映し出すぐらいクローズアップされた険しいがゆえに美しい山々。一方で、氷河の溶媒を遅らせるために大きなプラスチック製のマットが今にも山肌が現れそうな斜面に何枚も置かれている光景も映し出される。アルプスを襲う地球温暖化を目の当たりにすると共に、消えそうな氷河を今映像で残すことの意義を感じる。
アルプスの自然の恩恵を受けがら営みを続けてきた周辺の国々。飲み水や食糧、そしてエネルギー確保から観光産業に至るまで、アルプスと人間との関係を諸国の事情を紹介しながら、映像と共に映し出す。酪農が盛んなドイツ・アルゴイ地方、ルートヴィヒ2世が建設したリンダーホーフ城、ハイキングコースやカヌーで観光客に人気のフランス・ヴェルドン渓谷、水力発電のために村を埋め立て、今では水面から教会の塔のてっぺんだけが突き出ているイタリア・レッシェンの人造湖、全て人の手で作られたオーストリアの世界遺産、ゼメリング鉄道。特に、第一次世界大戦でイタリア軍とオーストリア軍が壮絶な戦闘を繰り広げたイタリアの世界遺産・ドロミーティでは、山の半分が爆破された生々しい傷跡があり、時を経てもその愚かさを後世に伝えるかのようだ。
もちろん、いわゆるアルプスの名山も次々と登場する。ヨーロッパアルプス最高峰のモンブランをはじめ、尖ったフォルムが魅了的な難攻不落の山として知られるマッターホルン。そして映画化もされたアイガー北壁。世界的に有名なこれらの山と、そこに連なる山々の姿は、本当に神聖で、美しく、そして何万年も人間と共にそこにある。今の姿が、ほんの10年や100年ぐらいで大きく変わるようなことがあってはならない。改めてそんな思いを強くした。(江口由美)
©VIDICOM2013