原題 | The Search |
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制作年・国 | 2014年 フランス,グルジア |
上映時間 | 2時間15分 |
監督 | 監督・脚本:ミシェル・アザナヴィシウス |
出演 | ベレニス・ベジョ,アネット・ベニング,マキシム・エメリヤノフ,アブドゥル・カリム・ママツイエフ,ズクラ・ドゥイシュビリ |
公開日、上映劇場 | 2015年4月24日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条)、シネ・リーブル神戸 ほか全国ロードショー |
~どのような世界でも消せない生命の輝き~
1999年10月16日ロシア兵がビデオカメラでチェチェンの状況を撮影している。この冒頭シーンは,チェチェンに住んでいるハジにとっては始まりで,チェチェンにやって来たコーリャにとっては終わりであった。ハジと生き別れた姉ライッサとのすれ違いで感傷に訴え,EUに勤めるキャロルの無力感と決意が共感を呼ぶ。だが何より,2人の少年のドラマが最後で繋がり,全体として明から暗を経て明へと回帰する,という構成が秀でている。
9歳のハジは,両親が殺害された日から声を失ってしまった。悲惨な現実を自分の心の奥底に封印することにより,非日常の中で何とか自我を保っているように見える。彼は,自分の体験を語り始めたとき,漸く日常に戻る扉を開け,人間としての尊厳を取り戻す第一歩を踏み出したのだった。キャロルが出掛けたときに一人で踊る見事なダンスには,逆境にあっても矜持を失わない強さが見える。その感情表現の繊細さには心を揺さぶられる。
19歳のコーリャは,警察に連行された日から奈落に突き落とされる。平和な世界から不意に死と隣り合わせの世界に放り込まれたため,生き残るには非日常に何とか順応するほかなかった。彼は,前線で初めて人を殺したとき,とうとう泥沼の世界に入り込み,人間性を捨て去らなければ生きられない状況に堕ちたのだ。戦争に巻き込まれていくロシア兵を描くことで,複眼的な視点を取り入れ,時制をずらすことで,物語に深みを与えている。
監督は,ラストシーンをファーストシーンと連動させることにより,ハジとその家族の物語が際限なく続いていることを示した。同時に,ハジが一度は奪われた笑顔を再び取り戻したように,苦しみの後には必ず救いがあることを示している。同じ過ちを繰り返す人間の愚かさだけではなく,それでも必ず生き抜いて輝きを取り戻す人間の逞しさがある。悲嘆に暮れるだけでなく,曙光を感じさせるエンディングで,監督のセンスの良さが光る。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://ano-koe.gaga.ne.jp/
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