原題 | En chance til |
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制作年・国 | 2014年 デンマーク |
上映時間 | 1時間42分 |
監督 | 監督:スサンネ・ビア 原案:アナス・トーマス・イェンセン,スサンネ・ビア 脚本:アナス・トーマス・イェンセン |
出演 | ニコライ・コスター=ワルロー,ウルリッヒ・トムセン,マリア・ボネヴィー,ニコライ・リー・コス,リッケ・メイ・アンデルセン |
公開日、上映劇場 | 2015年5月15日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ二条、TOHOシネマズ西宮OS ほか全国ロードショー |
~この良質な北欧ミステリーは見逃せない~
近年ブームになっている北欧ミステリー小説の特徴は,社会問題を背景とした人間ドラマにあるという。本作は,家庭内暴力や乳児虐待,薬物依存等を背景として,突然悲しみに襲われたアンドレアスの苦悩と葛藤,そして救済を描いている。人間の感情をあるがまま温もりのある視線で丁寧に映すので,心の奥底に響いてくる。それがスサンネ・ビア監督の映画だ。描かれるのは2組のカップルの出来事だが,全世界に共通する普遍性がある。
アンドレアスの同僚シモンは,離婚してアルコールに依存している。執行猶予中のトリスタンは,保身のため我が子ソーフスが連れ去られたと嘘を付く。家庭内暴力を受けるサネは,ソーフスを取り戻す手立てを持っていない。そして,子供を持つのが夢だったアナは,子育てに自信が持てず情緒不安定になっている。アンドレアスは,妻アナの心が少しずつ壊れていることにも,我が子アレクサンダーが助けを求めていることにも気付かない。
アンドレアスとアナは,不自由のない中流の生活を送っているが,徐々にひずみが大きくなっていく。トリスタンとサネは,希望のないどん底の生活を送っているが,ラストでそのイメージは吹き飛ばされる。外見は幸せそうな家庭と荒れ果てた家庭であっても,実体を反映しているとは限らない。アンドレアスの行動は,明らかに犯罪だが,善悪を截然と区別することができない。表層だけを見ているのでは,何も見ていないのと同じである。
序盤では,アンドレアスが突然死亡した我が子をほぼ同じ月齢のソーフスとすり替えるまでが描かれる。我が子が世界で一番大事な宝だと言うアナが垣間見せる狂気を孕んだような表情にインパクトがある。ソーフスの命を救ったと自らの行動を合理化するアンドレアスの動揺と葛藤が身体に表出する様子には胸が詰まる。その後の展開でも,スサンネ・ビア監督は,いつものように効果的に顔や目のアップを映してその人物の内面に肉薄する。
シモンがいつ真相に気付くか,アンドレアスがどう現実と折合いを付けるか,緊迫感が高まる。その中で,我が子を託した相手に対するアナの縋るような目,何かを決意した目が強烈な光を放つ。詰問するアンドレアスを見るサネの真実を見抜いたような目には怖さが宿る。アンドレアスが遺体発見の連絡を受けて流す涙から痛みが伝わり,死因を知った彼の脳裡に浮かぶ情景は余りにも悲しい。だからこそ,ラストの穏やかな輝きで救われる。
(河田 充規)
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