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『セッション』

 
       

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作品データ
原題 Whiplash
制作年・国 2014年 アメリカ 
上映時間 1時間47分
監督 監督・脚本:デイミアン・チャゼル
出演 マイルズ・テラー『ダイバージェント』/J・K・シモンズ『JUNO/ジュノ』
公開日、上映劇場 2015年4月17日(金)~TOHOシネマズ 新宿(オープニング作品)、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、シネ・リーブル神戸  他 全国順次ロードショー

 

 ~軍事教練顔負け、めちゃ過激な音楽教育~

 

session-2.jpgリベンジ(復讐)はアクション&ミステリーの定番。すでに様々なリベンジが出尽くした感があるが、本格ジャズ映画『セッション』で、見たことない“猛烈なる復讐”を見た。堂々と“宿敵”の前で復讐を果たすなんて、根性あるやっちゃ!

ジャズ・ミュージシャンを目指す名門音楽大学生の苦闘物語。入学したばかりのドラマー、ニーマン(マイルズ・テラー)と、伝説の鬼教師フレッチャー(J・K・シモンズ)が音楽性よりも人間性を賭けて激突する異形の“音楽バトル映画”だ。見終わった時、一緒に見ていた浪速の映画伝道師(パーソナリティ)浜村淳さんが開口一番「『愛と青春の旅だち』やなあ。リチャード・ギアをしごきまくるルイス・ゴセット・Jr.を思い出した」とつぶやいた。


ご存知『愛と青春の旅だち』(82年)は士官学校に入学したギアが黒人鬼教官(ゴセット・Jr.)にいじめ抜かれる厳しい軍事訓練の物語。無事卒業したギアが、町工場の娘(デブラ・ウィンガー)と結ばれるラブロマンスとして大ヒットしたが、まるで悪意の塊のような過酷な訓練は「一人前の将校に鍛え上げる」ためではあっても「何もそこまで」という気になる。実際、この映画でもギアの仲間たちは何人も脱落して辞めていき、親友は耐えきれず自殺してしまう。

戦場で兵士を指揮する将校の訓練ならともかく、同様の“鬼教官”が音楽学校にもいたというのが『セッション』に緊迫感があふれた理由だ。


ジャズには不案内だが、こんな過酷な修業をするなんて、ジャズ観が変わった。「ジャズは天才たちの至芸」と思っていたし、実際映画に3度もセリフで登場するサックス奏者“バード”ことチャーリー・パーカーは二人が讚美する通りの天才、巨人として知られる。ジャズ好きのクリント・イーストウッド監督が名作『バード』(88年)でオマージュを捧げてもいる。それほどの巨人バードも、フレッチャーによれば「ステージでシンバルを投げつけられ以来」死に物狂いで練習してその地位を築いたそうだ。天才でも、裏に凄まじい努力があるのは知られる通り。

session-3.jpg野球でも、フラミンゴ打法のホームラン王・王貞治さんや日米通算3000本安打へばく進するイチローの数々のエピソードが証明する。陰の努力こそ“天才”の由縁か。
鬼教師フレッチャーの厳しさは凄まじい。彼が稽古場に来るだけで空気が一変し、楽団員はピリピリ、一分の隙も弛みもない練習風景は“スポ根”映画顔負けだ。

さらに凄いのは、彼の度を越した個人攻撃。肌の色、人種などをあげつらって罵詈雑言を浴びせる“指導”は今なら到底許されないパワハラに違いないが、痛烈な罵声は小気味良くもある。
 

フレッチャーはマーニーの力を認めるからこそ厳しく当たったことはやがて分かるが、常軌をとうに越している。極めつけはマーニーが大事な演奏会に遅刻しかけるところ。レンタカーを飛ばして間一髪、間に合わせたものの、スティックを忘れたため「お前は終わりだ」と宣告され、慌てて取りに戻ったら今度はあろうことか衝突事故…それでも血だらけでステージに上がる鬼気迫るシーンは息を飲むばかり。
 

session-5.jpg堪忍袋の緒が切れてフレッチャーに殴りかかり、結局マーニーは学校を辞め、フレッチャーもまた「誰かの密告で」退職。今はバンド指揮者の彼が「いいドラマーがいない」と声をかけたことから二人の因縁対決は第2ラウンドへ。
指揮者がすべてを支配するステージ上、最初の曲目を知らされず、恥をかかされたマーニーは、一度はステージから退く。ついに断念か、と思わせながら、再びステージでスティックを握り、リベンジマッチに臨むのだから何とも凄い…。


session-4.jpg『愛と青春の~』のルイス・ゴセットJrがアカデミー賞助演男優賞を受賞したように、この映画のJ・K・シモンズも同賞受賞。徹底した“鬼教師”の役には説得力があるのだろうか。  マーニーと鬼教師の最後のやり取りが興味深い。「第二の天才は育てられなかった」と述懐するフレッチャーに、マーニーは「あなたが挫折させた」。だが、鬼教師は「天才は決して挫折しない」ときっぱり。二人の“天才論議”の結論は挫折ばかりの凡才には分からないが、凄絶な緊迫感あふれる画面がひとつの答えなのだろう。

(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://session.gaga.ne.jp

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