映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『ラスト5イヤーズ』

 
       

last5-550.jpg

       
作品データ
原題 The Last 5 Years 
制作年・国 2014年 アメリカ 
上映時間 1時間34分
監督 監督・脚本:リチャード・ラグラヴェネーズ(『P.S.アイラヴユー』)
出演 アナ・ケンドリック(『マイレージ、マイライフ』『イントゥ・ザ・ウッズ』),ジェレミー・ジョーダン(『ジョイフル♪ノイズ』)
公開日、上映劇場 2015年4月25日(土)~YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田 ほか全国順次公開

 

~出会いと別れの間で綴られる男女の想い~

 

ジェイソン・ロバート・ブラウンのミュージカルに基づく映画で,台詞らしい台詞はなく,全編が歌によって綴られている。売れない女優キャシーと売れっ子の小説家ジェイミーが共に過ごした5年間の物語だ。ニューヨークのアパートを正面からロングで映したショットで始まり,同じショットで終わる。表と裏が連続して1周すると向きが逆転するメビウスの帯のようだ。共有した時間に封じられた人生の喜びと悲しみが永遠に続いていく。


last5-2.jpgキャシーの時間は,ジェイミーが置き手紙をして一方的に出て行った傷心の時から始まる。そして,結婚式を遡行してジェイミーこそ最高の恋人だという出発点に向かう。ジェイミーの時間は,キャシーのような人を待っていたと歌う運命の出会いから始まる。そして,結婚式を通過してキャシーではない相手を求める終着点に向かう。異なる時間の流れの中を生き,途中のほんの短い時間を共有した男女の姿が,立体的に浮かぶような構成だ。


ペンが紙を滑るように,カメラが滑らかにワンシーンで自在に場所を移動して2人の心情を映し出す。男女の視点の違いを描くのに2本の映画は必要ない。結婚式前に幸せの絶頂にあったとき,小説家として順風満帆のジェイミーはキャシーに物語をプレゼントして夢は叶うと元気づける。そして,本作で唯一といえるダンスシーンがキャシーの幸せを象徴していた。また,他のミュージカル映画をめぐる監督のパロディや辛口の寸評も楽しい。


last5-3.jpg結婚式を挟んで2人が繋ぐ手のアップが映され,その前はジェイミーから,後はキャシーから歌い始める。左右が反転するシンメトリックな構図が生まれ,近付いた2人が離れていく。冒頭で傷心のキャシーが印象づけられたため,遡っていく過去が明るいほど失ったものの大きさが感じられて切ない。ジェイミーがキャシーの舞台を一度でも観に行っていたら状況は違ったかも知れない。「私を見て」という彼女の切実な訴えは届かなかった。


2人の時制を逆方向に進め,明暗を交互に映し出すことで,男女の視点の違いが強調される。2人の間に亀裂が走る寸前の状況から一転して青春の真っ直中へ,その後またグレーを基調とするシーンを経て,熱烈なキスをする2人となる。家の中には別れる前のジェイミーがいて,家の外には出会って間もないキャシーがいた。その2人が向き合って歌うとき,同じグッバイが「明日まで」と「永遠に」とで思いは異なり,歳月の流れがあった。

(河田 充規)

公式サイト⇒ http://www.last5years.jp/

(C)THE LAST FIVE YEARS THE MOTION PICTURE LLC

 

カテゴリ

月別 アーカイブ