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『パリよ、永遠に』

 
       

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作品データ
原題 Diplomatie 
制作年・国 2014年 フランス・ドイツ 
上映時間 1時間23分
監督 監督:フォルカー・シュレンドルフ(『ブリキの太鼓』『シャトーブリアンからの手紙』)          脚本:リル・ジェリー、フォルカー・シュレンドルフ
出演 アンドレ・デュソリエ(『美女と野獣』『愛して飲んで歌って』)、ニエル・アレストリュプ(『サラの鍵』『戦火の馬』)
公開日、上映劇場 2015年3月7日(土)~Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、テアトル梅田、京都シネマ、3月14日(土)~シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開

 

~“永遠の都パリ”を救った男たちの駆け引き~

 

華麗なるバロックの時代よりパリは世界が憧れる文化・経済の中心都市だった。今でも歴史的建造物や美術、音楽、バレエ、ファッション・美食などを求めて世界中から多くの観光客が訪れる世界最大の観光都市である。そのパリのシンボルであるノートルダム大聖堂やオペラ座ガルニエやエッフェル塔、ルーブル美術館やパリ市庁舎やブルボン宮など多くのランドマークを爆破し、パリが廃墟と化す危機があった事をご存じだろうか。


parieien-2.jpg第二次世界大戦中の1944年8月25日、「ドイツ軍パリ撤退時にパリを爆破せよ」というアドルフ・ヒトラーの命令で、パリ市内数か所のランドマークや橋梁に大量の爆薬が仕掛けられ、今まさに爆破されようとしていた―――受話器の向こうから「パリは燃えているか?」とアドルフ・ヒトラーの声が響くラストシーンが印象的な『パリは燃えているか』(1966年)は、カーク・ダグラスやオーソン・ウェルズやアラン・ドロンやジャン=ポール・ベルモンドなど、多くのアメリカやフランスの大スターが出演したパリ解放戦線を描いた大作だった。それに対し本作は、当時のドイツ軍パリ駐留総指揮官のコルティッツ将軍に爆破を思い止まらせようとする中立国スウェーデンの総領事ノルドリンクの外交術に焦点を当てた戯曲(舞台劇)を映画化したものである。


parieien-3.jpg舞台と同じくアンドレ・デュソリエとニエル・アレストリュプというフランスを代表する名優を主役に、ホテル・ル・ムーリス(5つ星以上のパレス級のホテル)の最上階にあるスイートルームで繰り広げられる二人の丁々発止の駆け引きが物語の中心となる。それが戦争アクションよりも緊迫感を持って危機脱出の面白さを見せてくれるから、さすが『ブリキの太鼓』のフォルカー・シュレンドルフ監督(ドイツ人)だ。昨年公開された『シャトーブリアンからの手紙』に続き、戦争中のフランスを描いているのも興味深い。


parieien-4.jpg「ベルリンやハンブルクが連合軍の空爆によって廃墟にされたのに、パリだけが美しいまま残っているのは許せない」というヒトラーの怒りの爆破命令を受け、家族を人質にとられているコルティッツ将軍が下した決断とは?パリで生まれ育った外交官家系のノルドリンクのパリを愛する気持ちと、プロイセン将校の貴族出身のコルティッツ将軍の人間性。どちらも文化芸術への造詣は深く、長い歴史の中で築き上げられてきたパリの街自体の重要性を理解できる人物であった。そうした共通点や心の隙間を攻めていくスリリングなノルドリンクの巧妙な外交術は、普遍的な人間観察と道理を示しているようだ。


parieien-5.jpg戦後を生き抜いたコルティッツとノルドリンクは、それぞれ回顧録を残している。それらを基にして書かれた戯曲に、決して許されない戦争に対するシュレンドルフ監督の深い想いが込められた逸品である。日本の京都が無傷だったのは、アメリカの日本文化へのリサーチの賜物だったことを考えれば、文化・歴史・芸術への造詣がいかに文明を救うかがよく理解できると思う。ドイツにもベルリン・ドレスデンという王朝文化を誇る古都があったが、いずれも第二次世界大戦で壊滅している。。現在のパリの美しさは、この二人の奇跡のような決断によって守られたことに、改めて驚かされると同時に、心から感謝したい。

(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://paris-eien.com/

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