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『カフェ・ド・フロール』

 
       

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作品データ
原題 Café de Flore 
制作年・国 2011年 カナダ・フランス 
上映時間 2時間 R-15
監督 監督・脚本:ジャン=マルク・ヴァレ『ダラス・バイヤーズクラブ』『ヴィクトリア女王 世紀の愛』        撮影:ピエール・コットロー
出演 ヴァネッサ・パラディ『ジゴロ・イン・ニューヨーク』、ケヴィン・パラン、エレーヌ・フローラン、エヴリーヌ・ブロシュ『トム・アット・ザ・ファーム』、マラン・ゲリエ   
公開日、上映劇場 2015年3月28日(土)~YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、    4月4日(土)~シネ・リーブル梅田、4月11日(土)~京都シネマ 他全国順次公開

 

~ひとつの旋律が結ぶ過去と未来~

 

ジャン=マルク・ヴァレが「ダラス・バイヤーズクラブ」以前に監督・脚本を手掛けた作品。物語は二つの構成からなる。

一つ目の舞台は2011年モントリオール。40歳の男が主役だ。音楽を生業とする彼には長年連れ添った妻と二人の娘がいる。妻はパンクミュージックにはまっていた少年時代から隣にいた少女だ。二人にはあまりにも多くの想い出と友人たちがいる。しかし、幸か不幸か、彼はそれを失っても厭わないと思えるほどの恋に出会ってしまった。過去の自分と現在の自分に引き裂かれそうになったとき彼を癒すのは音楽。タイトルにもなっているマシュー・ハーバートの「カフェ・ド・フロール」だった。
 

cafede-2.jpg二つ目の舞台は1969年のパリ。ダウン症の息子と彼を溺愛し懸命に育てている母親の物語だ。母親は息子の命を長らえることと彼により良い教育を与えることだけに人生のすべてを懸けている。音楽療法があるように障害にも音楽は恩恵を与えてくれる。ここでも「カフェ・ド・フロール」が登場する。一見、何の接点もないはずの二つの物語は、ひとつの楽曲をキーに時空を超えやがてひとつになる。
 

とても不思議な物語である。しかし、もっとも不思議なものは音楽そのものかもしれない。人に歴史ありというように、その歴史の影にも音楽がそっと寄り添っているのではないだろうか。旋律は脳の奥深くに刻まれる。それは母の胎内にいたときからすでに始まっていたという。しまい込まれた古い記憶は、ひとたび封印を解けばたちまちにそれを聴いていた時代の空気、情景、匂いと共に当時の感覚をも呼び起こす。まさに五感に強く訴えかけてくるもの。だからこそ、彼らは音楽に郷愁を誘われ、恋情を煽られる。
 

それは、母の子守唄かもしれないし、忘れられない人と共に聴いた曲かもしれない。何かに打ち込んでいたときに流れていた曲かもしれないし、曲ですらなく音そのものだったかもしれない。マシュー・ハーバートは主役のケヴィン・パランと共にDJであり、実験的な音楽活動を精力的に実践している。そこに歌手でもあるヴァネッサ・パラディが加わったことで作品全体が音楽の深淵そのものを顕しているようだ。
 

ピンク・フロイドの世界的ヒットアルバム「狂気」のナンバーもアクセントになり、彼らの見せる表情からは演技を超えたソウルが伝わる。それをジャン=マルク・ヴァレが独特の世界観でまとめあげた。映像美、ストーリーだけでなく、五感のすべてを使って堪能してほしい作品だ。そして、自分にとってのそんな一曲に思いを馳せてみるのも、いいかもしれない。

(山口 順子)

公式サイト⇒ http://www.finefilms.co.jp/cafe/

© 2011 Productions Café de Flore inc. 

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