制作年・国 | 2015年 日本 |
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上映時間 | 2時間12分 |
原作 | 中田永一(「くちびるに歌を」小学館刊) |
監督 | 三木孝浩『陽だまりの彼女』『ホットロード』 主題歌:アンジェラ・アキ「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」(EPICレコードジャパン) |
出演 | 新垣結衣、木村文乃、桐谷健太、恒松祐里、下田翔大、葵わかな、渡辺大知、木村多江、井川比佐志他 |
公開日、上映劇場 | 2015年2月28日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、ほか全国ロードショー |
~大人だって傷つき、子どもだって傷ついている。そこに光を与えるものとは?~
この映画の題名を聞いたとき、ん?と、遠い昔に読んだ詩が記憶の霞の向こうから立ち上がった。それは、大正から昭和時代に活躍した小説家であり劇作家でもあった山本有三が書いた『心に太陽を持て』で、そこに「唇に歌を持て」という一節が出てくるのだ。その詩と直接に関係はしないのだが、現代を舞台にしながら、どこか懐かしい感じを受ける本作。古い世代なら誰もが知っている『二十四の瞳』という名作を連想させる物語に、アンジェラ・アキの『手紙~拝啓 十五の君へ~』という歌を絡ませ、観る者の胸を熱くする。
長崎県の五島列島。海に射す陽光の明るさと美しい緑が印象的な小さな島に、ある日、ひとりの女性がやって来る。すらりとした若く綺麗な女性なのに、その口は真一文字に結ばれ、微笑みのかけらもこぼれない。柏木ユリという名のその女性は、産休に入る幼なじみの音楽教師の代わりに、この島の中学校で働くことになったのだ。その新しい先生が、ピアニストとして活躍していたと知った生徒たち、特に間近に全国コンクールを控えた合唱部のメンバーは大いに盛り上がる。だが、合唱部の顧問を仕方なく引き受けたユリはけしてピアノを弾こうとはしない。実は、彼女は心に大きな傷を抱え持っていたのだ。
生徒たちとユリの不協和音は高まるばかりだったが、コンクールの課題曲をより理解できるように、生徒たちに15年後の自分への手紙を書かせたことで、変化が現れる。青春まっただなかの彼らにも、人には話せない家庭の悩み、将来への不安感があることをユリは知らされるのだ。とりわけ、自閉症の兄がいるサトルの手紙に綴られた諦念、そのようにまだ年若い少年が自分の人生を考えるとはなんということなのだろうと切なくなる。
合唱コンクールの本番に至るまで、多くのアクシデントが訪れるが、そういうものを乗り越え、ユリと生徒たちがやっと一つになって歌い上げる場面がすばらしい。この歌は歌った者たちの胸にずっと長く刻まれることは間違いないだろうなと思う。古い西部劇『シェーン』のように、どこかからやって来た人が、当地の問題を解決してまた去って行くパターンのお話であるけれど、この映画において最も大きな変化を示したのは、ユリだ。同じように船に揺られながら、冒頭のユリとエンディングのユリは別人。大人だって変わることができるのだという爽やかさを残してくれる。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://kuchibiru.jp/
(c) 2015 『くちびるに歌を』製作委員会 (c) 2011 中田永一/小学館