原題 | Still Life |
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制作年・国 | 2013年 イギリス・イタリア |
上映時間 | 1時間31分 |
監督 | 監督・脚本:ウベルト・パゾリーニ |
出演 | エディ・マーサン、ジョアンヌ・フロガット、カレン・ドルーリー、アンドリュー・バカン、キアラン・マッキンタイア |
公開日、上映劇場 | 2015年1月24日(土)~シネスイッチ銀座、2月21日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、2月28日(土)~シネマート心斎橋、3月21日(土)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開 |
~故人の想いに寄り沿い、幸せなおみおくりをすることは、自らを幸福に導く~
何回見てもラスト号泣してしまう――孤独死した人の身辺を整理し弔うという民生係の地味な仕事ぶりに、なぜにここまで惹き付けられ、そして嗚咽するほど泣けてくるのか。
仕事とはいえ、亡くなった人の想いに寄り沿い、故人が信仰していた宗派の教会でお気に入りだった音楽を流し、人生で輝いていた頃を讃えるような弔辞を書き、丁寧におみおくりする。それは身寄りのない極めて質素な人生を送っている主人公ジョン・メイ自身の孤独な人生を際立たせ、報われることなく消えようとした瞬間、あるものに救われる。故人の幸せな最期を願ったジョン・メイの行為は、彼自身の幸せな人生へと繋がっていたのだ。ユーモアと優しい善意に満ちた本作を見た後は、どんな非情な心も溶かされ、あふれる感情を抑えられなくなるに違いない。
どんな亡くなり方をした人でも、その人なりの歴史があり、人生がある。誰かを助けたり、愛し合ったり、影響し合ったりしたこともあったかもしれない。幸せに輝いていたこともあっただろう。故人のそんな写真を持ち帰ってはアルバムに収めるジョン。まるで彼の家族が増えていくように厚みを増していくアルバム。こうしたジョンの丁寧なおみおくりによって、孤独死した人々の人生が最後に輝きを放つ。人の死に対する想いが希薄になりつつある現代でも、改めて衷心から故人を弔うことは、他者への尊重と思いやりの心を育み、自分自身の幸せにも繋がることを感じ取れることだろう。
『おみおくりの作法』というタイトルから日本映画『おくりびと』を連想されるかもしれないが、全く違う! よりシンプルなストーリーとテイストに加え、軽妙なユーモアと明るさで幸福感を味あわせてくれる映画だ。それもそのはず、世界的大ヒットとなった『フルモンティ』のプロデューサーのウベルト・パゾリーニが監督。「社会の文明化を証明するには、死者をいかに認識するかが最も重要」と、死者への想いが生者への尊厳に反映されることを示唆する。
【STORY】
ロンドンの南部にあるケニントン地区で民生係として働くジョン・メイ(エディ・マーサン)は、家族も友人もいない44歳の独身男。毎日、紅茶とリンゴとツナと食パンという実に質素な食生活に、道路を渡る時も右・左・右と見る慎重さに加え、身辺を常に整理整頓する几帳面タイプ。孤独死した人の家へ赴き、故人が使っていた椅子やベッドを見ては生前の暮らしぶりを想像する。宗派や好きな音楽や身寄りがないかを調べ、葬儀の段取りをする。家族や友人・知人がいれば葬儀への出席を促し、故人のために精一杯を尽くす。だが大抵誰ひとり出席せず、参列者はジョンひとり。
ある日、ジョンのアパートの真向かいに住むビリー・ストークが孤独死したことからジョンの生活に変化が訪れる。職場では経費削減の折から業務が縮小され、「死者への想いは不要!」とジョンは解雇されることに。ビリーの案件が最後となったジョンは、彼が大事そうに持っていた娘のアルバムに触発され、ビリーの身寄りを探し出し、是が非でも葬儀への参列を直接出向いて願おうとする。自宅と職場を往復する日々を送ってきたジョンが、列車やバスを乗り継いで地方へ旅に出る。しかも、初めてココアやミートパイを口にしたり、初めて訪れる街でいろんな人々に会ったりして、故人の人となりを知る。
ビリーはただの飲んだくれではなかった。職場では労働条件向上のため闘い、フォークランド紛争では命懸けで戦友を救い、精一杯女性を愛し、愛娘の成長を楽しみにしていた優しい父親でもあり、ホームレス仲間との交流も大切にするような男だったのだ。そして、アルバムの中の少女が成長したケリー(ジョアンヌ・フロガット)に出会ってから、ジョンの生活は大きく変化していく。
初めてケリーに出会うシーンがいい。まるで妹か娘にでも会ったかのように、ジョンが初めて人間らしい情感を見せるのだ。故人への想いを大切にしてきたジョンだったが、生きている人への想いが欠けていたことに気付いた瞬間でもある。ビリーの人生を辿る旅は、ジョンの人生にも温もりと彩りをもたらし、それまでとは違う輝きを見せ始める。綺麗なブルーのベストを着たり、いつもとは違う公園の中を歩いたり、犬好きなケリーのために犬の絵柄のマグカップを買ったりと。生き生きとしていくジョンに、ついハッピーエンドを願う自分の希望を託してしまう。
ジョン・メイを演じたエディ・マーサンは、『アリス・クリードの失踪』『ハッピー・ゴー・ラッキー』『思秋期』など、これまでキレやすい暴力的な役が多かった。それがどうだろう! 静かな想いを秘めた繊細な表情で終始惹きつけ、さらにケリーに会う時に見せる柔和な表情など、初めて見たような気がする。エディ・マーサンの表情に釘付けになりながら、他者の人生に想いを馳せることが、ひいては自らの人生をも豊かにしていくことを実感する。この映画に出会えたことを心から感謝したい。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://www.bitters.co.jp/omiokuri/
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