制作年・国 | 2014年 日本 R15+ |
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上映時間 | 2時間15分 |
監督 | 廣木隆一 |
出演 | 染谷将太、前田敦子、イ・ウンウ、ロイ(5tion)、樋井明日香、我妻三輪子、忍成修吾/大森南朋、田口トモロヲ、村上淳、河井青葉、宮崎吐夢、松重豊、南果歩 |
公開日、上映劇場 | 2015年1月24日(土)~テアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国順次公開 |
~街を、人を愛おしみながら描く、男と女の「運命の一日」~
新宿・歌舞伎町のラブホテルを舞台にした男女の群像劇なのに、驚くほど軽やかで、どこか優しい風が吹く。『ヴァイブレータ』、『やわらかい生活』に続き、脚本の荒井晴彦と3度目のタグを組み、オリジナルストーリーを映画化した廣木隆一監督。変わりゆく新宿の街を愛おしむかのように映し出し、様々な事情を抱えた男女がすれ違い、重なり合い、決断する様を、あるラブホテルの1日に真空パックした珠玉のヒューマンドラマだ。
冒頭、朝日に輝く新宿の街を映し出しながら、前田敦子演じる沙耶がギターを弾きながら歌を口ずさむ、「まわるベッドの上、あかりは少しだけ」。「今どき、回るベッドなんてない」とツッコむ恋人こそ、本作の主役であり、同棲中の恋人、沙耶に自分がラブホテルの店長であることを明かせずにいる徹だ。徹演じる染谷将太と前田敦子の冒頭の絡みは、同じ日別の場所でお互いが真実を突き付けられる“究極の一日”のはじまりを予兆している。
ラブホテルで様々な客や従業員、はてはAVに出演する妹や恋人にまで出くわしてしまい苦悶する徹と同様に、群像劇の中でも大きな存在感を見せるのは、韓国人のデリヘル嬢、ヘナだ。ヘナを演じているのは、キム・ギドク監督作『メビウス』で相反する表情を持つ女を体当たりで演じ分け、強烈な印象を残したイ・ウンウ。帰国前日、最後の客たちに対する奉仕ぶりや、都会で傷つき萎れる男たちに対する思いやりは、まるで天使のように映る。夜明け近く、本当に最後の客を前にして天使がみせた涙は、天使が一人の女に戻った証だった。ヘナに関連して、ヘナがお店と自分の芸名の由来を店長(田口トモロヲ)に尋ね、「昔、ジューシーフルーツというバンドが好きだった。ボーカルがイリアという名で」と答えたときには、あまりの懐かしさで胸がいっぱいになった。記憶に残るような大人の小ネタエピソードを忍ばせる遊び心もたまらない。
秋葉原殺傷事件をモチーフにした『RIVER』では冒頭15分間、ヒロインが秋葉原を歩く姿を長回しで映し出し、まさに秋葉原の姿をまるごとキャメラに収めた廣木監督。本作でも冒頭では徹と沙耶が自転車で昼間の新宿を走り抜け、夜明け前には時効目前の逃亡者カップル(松重豊、南果歩)が、徹の自転車を借り、きゃあきゃあ言いながら眠らない街を疾走していく。時には歩く目線で、時には高速バスからも街を切り取る。街や文化を映画に刻み付ける廣木監督作品らしいショットの数々から、新宿という街の息遣いを感じるのだ。一方、『RIVER』にも通じる社会的な一面も見逃せない。大久保のヘイトスピーチや被災地出身者のエピソードなど、東日本大震災以降の新宿やそこに辿りつく人たちのエピソードを細やかに積み重ねている。
『さよなら歌舞伎町』、それは変わりゆく新宿・歌舞伎町へ捧げる歌のようでもあり、歌舞伎町を去って新しい人生を歩もうとする男と女の“人生の通過点”でもある。幾つになっても不器用な大人たちだけは、いつまでも変わらないのだろうと思いながら、ともすれば濃密になりすぎてしまう男と女の物語を、まるで高みの見物のようなカラリとした気分で眺めるのだ。ここぞという時に流れる、つじあやののアコースティックな音色が効いていた。(江口由美)
(C) 2014『さよなら歌舞伎町』製作委員会