原題 | Life feels good |
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制作年・国 | 2013年 ポーランド |
上映時間 | 1時間47分 |
監督 | ・脚本:マチェイ・ピェプシツァ |
出演 | ダヴィド・オグロドニク、カミル・トカチ、ドロタ・コラク、アルカディウシュ・ヤクビク、カタジナ・ザヴァツカ |
公開日、上映劇場 | 2015年 1月3日~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、1月17日~シネ・リーブル神戸 |
~諦めないこと…不屈の精神の気高さを教えてくれた青年の生の軌跡~
幼い頃、“知的障害で、植物のような状態”と診断されたマテウシュ。脳性麻痺で身体に重度の障害があり、言葉も話せないが、豊かな感情も思考力も持ちあわせていた…。1980年代、民主化の進むポーランドを舞台に、マテウシュの成長する姿をあたたかく、包み込むように描く。実話を基にした物語。
マテウシュの両親、姉、兄と家族のありようが心に残る。深い愛情を注ぎ続ける母。マテウシュに星を眺めることの楽しさを伝え、男が怒りを示す時は拳を叩きつけろと教える父。ユーモラスで明るい父の存在は、マテウシュにとって大切な心の支えとなる。背中で床をはうようにして動くマテウシュ。カメラはマテウシュの視線、床の高さからのローアングルで部屋全体をとらえ、椅子の奥に落ちているブローチや、見えないものを見せてくれる。口笛の入った爽やかな音楽が、風のように明るい空気を吹き込む。
家の中でのマテウシュの定位置は、窓の傍ら。そこに座って、隣のアパートの人達を観察する。自分の人生においても観察者であるかのように、ユーモアやアイロニーを交え淡々と語るマテウシュのモノローグが適所に入ることで、観客は、深刻で辛い体験も、オブラートでくるまれたように、距離を置いて観ることができる。
マテウシュ自身は、いろんなことを感じ考えているのに、家族をはじめまわりの人達には、それがわからない。箱の中に閉じ込められたかのようなマテウシュの心の叫びが伝わり、知的障害と思い込まれることの辛さが痛いほど迫ってくる。思いを伝えようと、必死で体を動かせば動かすほど、逆に、ヒステリーと勘違いされ、拘束されてしまう。とりわけ家族と離れ、施設に入れられてからの、まわりの無理解がマテウシュの悲しみを深くする。それでも諦めないマテウシュ。父に教えられた不屈の精神で、いつか自分が感情も知性も持つ人間で、植物ではないことを伝える機会がやってくるのを待ち続ける…。
船員として世界中を旅する兄トメクからの絵葉書を母がマテウシュに届けに来る。少しずつ老いていく母の姿から、月日の流れが伝わる。マテウシュも幾つもの出会いと別れを、恋のきらめきも体験する。マテウシュの生の歩みは、どんなことがあっても強く生き抜くことの尊さ、困難にくじけない人間の精神の気高さを教えてくれる。
マテウシュを演じたのは『イーダ』(2013年)で、サックス奏者の青年を演じたダヴィド・オグロドニク。迫真の演技が、真実の重みをリアルに伝える。子ども時代のマテウシュを演じたカミル・トカチの、言葉にできないけれど、思いをいっぱい貯めこんだような表情が心に残る。
(伊藤 久美子)
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