原題 | La Venus a la fourrure(英題:VENUS IN FUR) |
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制作年・国 | 2013年 フランス,ポーランド |
上映時間 | 1時間36分 |
監督 | 監督・共同脚本:ロマン・ポランスキー(『戦場のピアニスト』 『ゴーストライター』 『おとなのけんか』) |
出演 | エマニュエル・セニエ(『赤い航路』『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』 『潜水服は蝶の夢を見る』)、 マチュー・アマルリック(『007 慰めの報酬』 『グランド・ブダペスト・ホテル』 『潜水服は蝶の夢を見る』) |
公開日、上映劇場 | 2014年12月20日(土)~Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、テアトル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他全国順公開 |
~その妖しさに幻惑され,恍惚とする中で~
エキゾチックな世界へ誘うような音楽に導かれ,長い歴史の流れを感じさせる劇場に入っていく。ワンダと名乗るミステリアスな女優がオーディションに遅れてやって来た。トマという名の自信に満ちた演出家がワンダ役の女優を探していた。携帯電話がなければ完全に外部と隔絶された時空で,現実と幻想が交錯する。マゾッホの小説「毛皮を着たヴィーナス」を脚色した舞台劇が形を表すに連れて,女優と演出家,女と男の境界が失われる。
ワンダ・ジュルダンは,その名前がオーディションのリストにない。トマの求める女性像とは正反対で,がさつとしか言いようがない。かなり読み込んだような台本を取り出して,原作は美しい愛の物語ではなくSMポルノだと言い放つ。舞台の照明を思い通りに操作して,幻想的な雰囲気を創造する。台詞を喋り始めるや,舞台上には紛れもなくトマが求めるワンダが現れた。目をみはる演技で,エマニュエル・セニエが2人のワンダとなる。
トマ・ノヴァチェクは,成果のないオーディションに疲れていた。自分がワンダを演じるなどと電話で婚約者に言っていた。だが,ワンダのオーディションが始まると,相手役クシェムスキーに同化していく。予定の3ページが終わっても芝居を続けることを望んだのはトマだった。クシェムスキーとトマがそれぞれ別のワンダに支配される過程がスリリングだ。ワンダが同じ名前で違う人物だとすれば,トマは違う名前で同じ人物だといえる。
戯曲にない小説のシーンを即興で演じるとき,もはや主導権は完全にワンダにある。ソファに横たわる彼女は既にヴィーナスの正体を現している。クシェムスキーに自己を投影するトマはディオニソス(バッカス)と重なっていく。バッカスの巫女たちは狂気と陶酔の中に自己の解放を求めた。女神は,トマにワンダを演じさせ,その深層を剥き出しにして生け贄のように緊縛する。毛皮を着た女神は,勝ち誇ったように舞いながら消え去った。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://kegawa-venus.com/
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