原題 | THE AMAZING CATFISH |
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制作年・国 | 2013年 メキシコ |
上映時間 | 1時間31分 |
監督 | 監督・脚本:クラウディア・サント=リュス |
出演 | ヒメナ・アヤラ、リサ・オーウェン、ソニア・フランコ、ウェンディ・ギジェン、アンドレア・バエサ、アレハンドロ・ラミレス・ムニョス |
公開日、上映劇場 | 2014年10月25日(土)~シネ・リーブル梅田、11/29(土)~京都シネマ、シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開 |
~人に寄り添うこと、人の支えになることの喜び~
人の世話をし、ぬくもりを感じること、人の支えになることは、自分自身が生きていく励みになり、喜びになる。
幼い頃、両親を失い、友達も恋人もなく、心を閉ざしてきた26歳のクラウディア。虫垂炎で入院し、病室で20歳年上のマルタと出会う。マルタは4人の子を持つシングルマザー。見舞いに来た子ども達に囲まれ、賑やかなマルタと対照的に、クラウディアはひとりぼっち。退院したばかりのクラウディアを、マルタが家の食事に招いたのがきっかけで、クラウディアは、子ども達の学校への送り迎えや、病院での付添いを手伝ったり、家族の一員のようになっていく。人懐っこい末息子のアルマンドに「キスってどんなの?」と聞かれ、誠実に答えるクラウディアの姿が微笑ましい。クラウディアの突然の来訪に、最初は「お母さんの気まぐれよ」と怪訝だった3人の娘達も、いつしかクラウディアに打ち解けていく。子ども達が皆個性豊かで、とりわけ次女のウェンディはふてくされたり、はしゃいだり、いろんな表情を見せてくれて魅力的。
マルタは不治の病で、死期が遠くないことを覚悟している。愛する家族が痛みに苦しむのを見るのはつらい。死期の近い母を前に、不安定になる子ども達にとって、クラウディアは、本音を打ち明けられる大切な存在。看病に疲れたウェンディが、隣に座ったクラウディアの肩に頭をのせ、目を閉じる。クラウディアの少しはにかんだ、嬉しそうな表情がいい。
映画は、家族の姿を淡々と切り取っていく。皆で海へ行きたいとマルタが言い出し、クラウディアも一緒に泊まりで旅に出かける。空は青く、海も美しい。でも、ウェンディがクラゲに刺されたり、マルタも夜半、体調を崩し、急遽病院へ引き返すことになる。せっかくの旅行もうまくはいかない。でも、だからこそ、蜂に刺されたアルマンドの怪我を手当てするマルタの優しさが心にしみる。
監督自身の実体験を基にした物語。クラウディアの心の揺れを、言葉でなく、表情の変化で丁寧に描きとった。今まで笑うことのなかった寡黙なクラウディアに笑顔が生まれ、少しずつ変わっていく。家族のようになれた時の喜びと同時に、マルタの容態が急変し、ひとり病院の外で置き去りにされ、血のつながった家族にはなれない寂しさも描かれる。生きていく中で味わう、ごつごつした痛さも辛さも、触れ合える優しさも嬉しさも、映画は、さりげなく、そっとそのまま差し出して、最後は、マルタの寛大な愛が、子ども達とクラウディアを結びつけ、あたたかな余韻に包まれる。
(伊藤 久美子)