原題 | Tom a la ferme |
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制作年・国 | 2013年 カナダ・フランス |
上映時間 | 1時間42分 |
原作 | 原作・脚本:ミシェル・マルク・ブシャール |
監督 | 監督、脚本、編集、衣装:グザヴィエ・ドラン |
出演 | グザヴィエ・ドラン、ピエール=イヴ・カルディナル、リズ・ロワ、エヴリーヌ・ブロシュ |
公開日、上映劇場 | 2014年10月25日(土)~新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンク、キネカ大森、テアトル梅田, 11月8日(土)~京都シネマ、12月中旬~元町映画館 ほか全国順次公開 |
受賞歴 | 2013年ベネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞 |
~恐怖に絡めとられたトムの災難~
自分がとんでもない所に来てしまった!と気付いた時にはすでに遅く、身動きが取れなくなっていたなんて経験はないだろうか?よく夢の中で誰かに追いかけられ、うなされて目が覚めることがあるが、「人間ほど恐いものはない!」とこの映画を見てもそう思った。都会からやって来たトムが訳もわからぬ暴力で支配される農場から逃げ出そうとする物語だが、そこにはカナダ東部のケベック州がもつ特異性や抑圧された人々の怒りが、日常を少しずつ狂気に変えていく様子が描かれている。過剰なクライム映像ではなく、トムが置かれた状況がひしひしと伝わってくるようなリアルさで、最後の最後まで凍りつくような恐怖で惹きつける。
日本では昨年公開された『わたしはロランス』で一躍脚光を浴びたカナダの俊英グザヴィエ・ドランが、監督、脚本、編集、衣装を手がけ、主演までしている。本作は昨年のベネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞し、今年のカンヌ国際映画祭では監督5作目となる『Mommy』が審査員特別賞を受賞している。若干25歳にして、世界が大注目する映画作家である。瑞々しい映像美と高い技術力とセンスの良さで魅了するドランは、今までは同性愛者である自分の感性を主軸にしたオリジナル脚本を製作してきた。今回も同性愛というキーワードがベースにあることに変わりはないが、同名の舞台劇を基に原作者のミシェル・マルク・ブシャールと共同で脚本を練り上げている。だからこそ今まで以上の完成度と半端ではない満足度で楽しませてくれるのだ。
【STORY】
モントリオールで働いているトム(グザヴィエ・ドラン)は、冷たい雨が降る初冬、恋人ギョームの葬儀のために彼の故郷へと車でやって来る。誰も居ない家のキッチンで寝込んでしまったトムを、帰宅したギョームの母親アガット(リズ・ロワ)は亡き息子の友人として歓待するが、恋人のサラが来ないことに憤りを見せる。本当の恋人はトムだということを母親に伝えられていないことにショックを受ける。夜中、眠り込んでいるトムにいきなり兄のフランシス(ピエール=イヴ・カルディナル)が襲い掛かり、ギョームとの関係を母親には絶対秘密にすることと、葬儀では母親が喜ぶような弔辞を読めと脅迫する。この兄の登場の仕方にして、異様な恐怖支配の幕開けを暗示している。
翌日のギョームの葬儀では、最愛の恋人を失った悲しみのあまり弔辞を読むことができなかったトムは、帰宅してフランシスから暴力を振るわれ怪我をする。治療にあたった医者から早く農場から去るように進言される。さらに、母親を安心させるために恋人サラからの嘘のメッセージを言わされた上、ギョームに代わって農場を手伝わされるトム。すべて母親のためといいながら、兄のフランシスの異様な凶暴性が見え隠れし、ある過去の事件が浮かび上がってくる。兄弟に何があったのか?トムは農場から脱出できるのか?
どんよりとグレーがかった初冬の田園風景。都会からやってきたよそ者のリベラル感覚と田舎で暮らす者の鬱屈した思いとのギャップが生み出す、嫉妬や怒りのような複雑な心情が少しずつ人を狂わせていく。そのあたりの不安と恐怖が滲み出る様子は、感覚的に人を恐怖に陥らせるヒッチコック映画を彷彿とさせる。最後まで固唾をのんで惹きつけるサスペンス映画も作れるグザヴィエ・ドランて、やっぱ凄い!次回作が楽しみでならない若き名監督だ。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://www.uplink.co.jp/tom/
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