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『イコライザー』

 
       

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作品データ
原題 THE EQUALIZER 
制作年・国 2014年 アメリカ 
上映時間 2時間12分
監督 アントワーン・フークア(『トレーニング デイ』、『エンド・オブ・ホワイトハウス』)
出演 デンゼル・ワシントン(『トレーニング デイ』、『フライト』)、クロエ・グレース・モレッツ(『キック・アス』、『キャリー』)ほか
公開日、上映劇場 2014年10月25日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ他全国ロードショー

 

~デンゼル鮮やか“必殺”世直し技~

 

あっという間に敵を片付けるデンゼル・ワシントンの姿に、往年の人気テレビ時代劇を思い出した。かつて話題を集めた関西テレビ系股旅もの「木枯し紋次郎」(中村敦夫主演)、後発でこれを追い抜いたABC系「必殺仕掛人」。「晴らせぬ怨みを晴らします」と極悪人を始末する“裏稼業屋たち”の物語。殺し屋が主役なんてお茶の間の「水戸黄門」「大岡越前」ファンには衝撃だったはずだが、これが大受けした。ABC山内久司プロデューサーは当時、「破天荒なストーリーだが、それほど悪い奴がのさばっている。材料はいくらでもある」と話していた。「越後屋、おぬしもワルよのお」ってな具合で今も昔も悪事の種は尽きない。“必殺シリーズ”は何度もタイトル、出演者を入れ替えて10年以上続いた。
 

EQUALIZER-2.jpgデンゼルが無敵の殺し屋にふんする『イコライザー』はズバリ、現代の必殺仕掛人(仕事人)。彼の技の切れは感動的ですらある。  ロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)はホームセンター従業員。夕食後、眠れず近所のダイナーでお茶を飲み、読書する平凡な勤め人。常連の少女テリー(クロエ・グレース・モレッツ)と言葉をかわすようになるが、どぎついメイクの彼女はロシアン・マフィアの娼婦だった。ある時テリーは「客に殴られた」と駆け込んで来るが、マフィア連中は見せしめのために痛め付け、病院送りにする。見ていた“平凡な勤め人”に怒りの火が着く…。
 

病院で昏睡状態のテリーを見舞ったマッコールは単身、マフィアの巣へ乗り込み、「9800㌦で彼女を自由に」と頼むが、ロリコンと罵られ散々な目に。座頭市なら盲目をなじられたと言ったところか。目が見えるマッコールは、室内の様子…灰皿、ペーパーウェイト、グラス、花瓶などを一瞬で目に焼き付け、それらを武器に「5人倒すのに16秒」と算出し実行に移す。充満する怒りから容赦ない反撃へ、この間(ま)が痛快アクションの醍醐味だ。    彼は銃を使わない。空手かカンフーか、セガール流のマーシャル・アーツか、武術の手練れは相手に触れさせることもなく、圧倒的な強さで敵を倒す。フークア監督は伝説のボクサー、シュガー・レイ・レナードとの付き合いからマッコールの戦い方を造形した、という。
 

EQUALIZER-4.jpgマッコールは元CIAの工作員だが、引退した原因は不明。相当凄惨なことがあった、と想像するしかない。言わばたった一人の“エクスペンダブルズ”。元締スタローンに呼ばれても「性に会わない」と単独行動を選び、ひっそりと暮らしてきたのだろう。だが、一人の少女の苦境が彼の正義感を目覚めさせた。
 

マッコールのもうひとつの敵は始末に悪い汚職警官。職場で面倒見ていた部下が辞めたと聞き、理由を探ると、母親が経営していた飲食店が“見かじめ料”不払いからボヤが起きたと分かる。“そんな奴は許さん”と弱い者いじめの警官をこっぴどくやっつけるあたりはもっと古く月光仮面か、今では懐かしい“正義の味方”だ。近年、このジャンルはスーパーマンやバットマンらもっぱらアメコミ・ヒーローが肩代わりしてきたが、アカデミー賞俳優デンゼルのヒーローは迫力満点だ。
 

EQUALIZER-3.jpg一方、ロシアンマフィアはもっと手強い。こちらは元KGBの総元締が、証拠を残さない現場を見て「プロの仕事」と察知、組織の総力を上げて“犯人割り出し”にあたる。元CIA対元KGBの激突が火蓋を切って落とす。決戦の場はマッコールの職場、ホームセンター。デンゼルの武器はセンターの商品。特殊な武器などない、日用品を駆使して、ロシアン・マフィアをひとりひとり片付けていく。その工夫、日常生活者の知恵が秀逸だ。
 

思えば“必殺シリーズ”の仕事人たちも、武器は主に仕事道具だった。同心・中村主水(藤田まこと)だけは侍だから刀だったが、三味線の師匠(山田五十鈴)はバチ、その息子、三味線屋(中条きよし)は糸で、飾り職人の秀(三田村邦彦)はのみでとどめを差す。

ルーツひもとくと「イコライザー」の原案は80年代に放送された米テレビドラマ・シリーズ。日本では90年代に「ザ・シークレット・ハンター」として深夜枠で放送されたという。「法で裁き切れない悪を退治する」仕事は“必殺”の方が10年は早かったが、コンセプトは同じなのだった。

アントワーン・フークア監督は『トレーニング・デイ』(01年)でデンゼル・ワシントンにアカデミー賞主演男優賞をもたらした人。監督とデンゼルはまた新たな“正義のヒーロー”を作り出した。それはアメリカが希求する正義感の発露ではないか。

 (安永 五郎)

公式サイト⇒ http://www.equalizer.jp

 

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