原題 | RED FAMILY |
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制作年・国 | 2013年 韓国 |
上映時間 | 1時間40分 |
監督 | イ・ジュヒョン 製作総指揮・脚本・編集:キム・ギドク |
出演 | キム・ユミ、ソン・ビョンホ、チョン・ウ、パク・ソヨン他 |
公開日、上映劇場 | 2014年10月4日(土)~新宿武蔵野館、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国順次公開 |
受賞歴 | 第26回東京国際映画祭観客賞受賞 |
~北朝鮮二重スパイの「疑似家族」に込めた南北分断への想い~
南北分断下、韓国で脱北者抹殺の任務を果たす北朝鮮スパイたちの姿を描きながらも、時には笑いを交えて疑似家族の悲喜こもごもを浮かび上がらせる。どこかホームコメディーのような滑稽さが魅力的な「かなり訳あり家族」の物語だ。『嘆きのピエタ』の鬼才キム・ギドクが製作・脚本・編集を担当し、本作が初長編作となる若き才能イ・ジュヒョンを監督に指名。イ・ジュヒョン監督はその期待に応え、ワールドプレミア上映された第26回東京国際映画祭で見事観客賞を受賞した。普遍的な家族の物語としても、見応えのある懐の深い作品といえるだろう。
夫婦とその娘、そして厳格な祖父。仲睦まじい理想の韓国家族に映る4人の正体は、北朝鮮から来たスパイのツツジ班。一歩家の中に入れば妻役の班長ペク(キム・ユミ)の厳しい指導が入る中、北朝鮮の家族への想いを胸に任務遂行する緊張した日々を送っている。そんなツツジ班の隣には夫婦喧嘩が絶えない夫婦と息子、祖母の平凡な一家4人が住み、つまらない騒動を巻き起こしていた。ある日、隣家の危機を救ったペクらは、お礼にと食事を一緒にすることになるのだったが・・・。
常に行動を監視され、任務が失敗すれば北朝鮮にいる家族の命が危ないという緊迫感の中、疑似家族を演じているツツジ班。休日にペクらが観る映画も『プンサンケ』(キム・ギドク製作・脚本の南北分断を題材にした作品)と、どんな時でも自らの立場を忘れられないストイックな生活を送っている。一方、彼らが「堕落している」と言い放つ南の家族たちは、晩ごはんの内容など、本当につまらないことで毎日喧嘩をしている。北VS南という国民性の対比だけでなく、疑似家族VS本当の家族という対比の構造が面白い。さらに、両家が集まったパーティーの席では北や南であることは関係なく、個人個人の本音が明かされていく。特に印象的なのはツツジ班娘役のミンジ(パク・ソヨン)が「南北両国が心を開いて話し合うべき」と主張するシーンだ。これから南北分断という問題に立ち向かう若い世代の叫びは、周りの大人たちに諌められながらも、聞き逃せない言葉として一矢を放っている。
隣の家族と仲良くなりすぎたために立場が危うくなり、ついには隣家暗殺か自殺かという究極の選択に迫られたツツジ班。自らの家族と会って喧嘩することもままならず、暴力でしかつながっていなかった疑似家族だが、南の家族との交流が刺激となり、お互いへの信頼感が芽生えていく。過酷な任務の中、国家に対する葛藤に苦しみ、抑制してきた感情を爆発させるかのようなクライマックスは、彼らの家族への渇望に胸を締め付けられる思いがした。南北の線を越えるのはまだまだ難しいが、隣の家ならその柵を乗り越え行き来することだってできる。家族を主軸に据え、永遠の命題をシンプルに、そして希望を込めて描いた注目作だ。(江口由美)