『ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古』
原題 | Peter BrookーThe Tightrope |
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制作年・国 | 2012年 フランス,イタリア |
上映時間 | 1時間26分 |
監督 | サイモン・ブルック |
出演 | ピーター・ブルック,笈田ヨシ,マルチェロ・マーニ,ヘイリー・カーミッシェル,ジョシュ・ホーヴァン,アブド・ウォロゲム,シャンタラ・シヴァリンガッパ,リディア・ウィルソン,エミリー・ウィルソン,ミーシャ・レスコ,セザール・サラシュ |
公開日、上映劇場 | 2014年9月27日(土)~TOHOシネマズ梅田 TOHOシネマズ西宮OS 他全国ロードショー |
~想像と創造が生み出す豊かで美しい世界~
ピーター・ブルックは,1925年ロンドンで生まれたイギリスの演出家で,現代演劇界の巨匠と言われる。ミニマムな舞台の中で,俳優の身体がそれを見る観客と呼応して,イマジネーション豊かな世界を創造する。来日公演は1973年から12回を重ね,2012年に「ピーター・ブルックの魔笛」,2013年に「ザ・スーツ」が上演されている。本作は,彼のワークショップの様子を,息子のサイモン・ブルックがフィルムに収めたドキュメンタリーだ。
原題が「Peter Brook-The Tightrope」で,綱渡りの稽古を通して演劇の真髄に迫っていく。床に敷かれたカーペットの上にロープがあるものとして,俳優が綱渡りを演じる。本物のロープが存在するという想像力とリアリティが容赦なく要求され,全身から溢れる力で演じなければならない。「芝居とは普通を演じることであり,リアリティを追及する作業だ」と彼は言う。舞台上の”なにもない空間(Empty Space)”から劇場全体に豊かな世界が広がる。
演技には観客と一体になれる瞬間があり,突然自由な何かに包まれ,かつてない喜びが生まれる,と彼は言う。確かに観客の立場から見ても,役者が自分を超えた何かに動かされているような憑依を感じることがある。力量に依存したり技術に頼ったりする演劇には生命は吹き込まれず,役者が芝居の世界に没頭することで得られる感覚が大切だというのだ。場内が役者の発する濃いエネルギーで満たされたとき,芝居の醍醐味が生み出される。
彼の言葉に耳を傾ける役者たちの姿から伝わってくる集中力が凄い。何の変哲もなさそうな”綱渡り”が徐々に豊かな意味を帯びてくる。ただ歩いているだけの身体の動きに豊かな意味が与えられるとき,観客は舞台に惹き付けられる。演劇の本物の行為というものは,人の心に触れ,痕跡を残すこと,と彼は言う。深淵の上層に横たわる果てしない綱渡りは,演劇やそこに描かれる人生そのものであり,完璧なバランスの取れた瞬間が美しい。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://www.peterbook.jp
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