『悪童日記』
原題 | A NAGY FUZET/THE NOTEBOOK/LE GRAND CAHIER |
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制作年・国 | 2013年 ドイツ,ハンガリー |
上映時間 | 1時間51分 PG-12 |
原作 | アゴタ・クリストフ『悪童日記』 |
監督 | 監督・共同脚本:ヤーノシュ・サース |
出演 | アンドラーシュ・ジェーマント,ラースロー・ジェーマント,ピロシュカ・モルナール,ウルリク・トムセン,ウルリッヒ・マテス,ギョングベール・ボグナル |
公開日、上映劇場 | 2014年10月3日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテ、TOHOシネマズ梅田、 10月18日(土)~京都シネマ、シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開 |
~理不尽な状況で生きる痛みと怖さと切なさと~
暗がりに浮かぶ双子の兄弟の顔はどこか能面のようだ。表情がないように見えたり複雑な表情を見せたりする。その眼差しには生きたいという切なる願いが宿っているようにも感じられる。戦時下で生き残るためには感情を押し殺さざるを得ない。ぼくらの日記のように主観を排除して客観性を保たなければならない。そのように生きるしかなかった悲しみが浮かび上がる。日常の中で人間同士が殺し合う世界では人間らしい感性は妨げとなる。
アゴタ・クリストフの「悪童日記」が映画化された。原作では時代も場所も明らかにされていない。映画では第二次世界大戦中のハンガリーが舞台となっている。いずれにせよ戦争中で人間が互いを殺し合っていた。そんな理不尽な状況の中でぼくらは”魔女”と呼ばれる祖母と生活することになる。タダ飯は食わせないと言われる。そして2人は生き延びる手段を学習していく。強く生きることが人間性を押し殺すことだとすれば実に悲しい。
ぼくらは体を鍛えることにした。痛くても泣かないで我慢できるように鍛錬する。互いを殴り合うことで。打つ方も打たれる方も悲痛だ。思い出すと心が痛むと言って母親を忘れる努力をする。残酷さに慣れないといけないと考えて虫や魚を殺す。聖書から言葉を学ぶが信仰はしない。生きるために頼りになるのは自分たちだけだ。2人が認識する世界だけが描かれる。彼らを取り巻く状況は分からない。不気味さが広がり不安感が大きくなる。
映画では最初に家族4人が食卓を囲むシーンが描かれる。白い光に溢れている。その後は黒い闇に包まれている。全てが坦々と事務的に処理されていく。その過程でユダヤ人を蔑ろにする女性に制裁を加える。脳卒中で倒れた祖母の死を手伝う。仄見える人間性が何だか怖い。最後には父親を文字通り踏み越えて先へ進む。1人で生きることも学習しようとする双子の姿に切なさを感じる。ただラストでは遠くに白い光が見えたような気がする。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://akudou-movie.com/
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