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『ザ・テノール 真実の物語』

 
       

tenor-550.jpg『ザ・テノール 真実の物語』

       
作品データ
原題 The Tenor Lirico Spinto  
制作年・国 2014年 日本・韓国
上映時間 2時間1分
監督 キム・サンマン
出演 ユ・ジテ、伊勢谷友介、チャ・イェリョン、北乃きい、ナターシャ・タプスコビッチ、ティツィアーナ・ドゥカーティ他
公開日、上映劇場 2014年10月11日(土)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹にて全国ロードショー!

 

~どん底に陥ったテノール歌手を再びステージに引っ張り出したものとは?~

 

人はある日ある時、思いも寄らない病や事故、災難に出遭う。いくら回避しようとしても、やって来るものは仕方がない。問題はそういうものを受けた後の身の処し方だ。絶望の泥沼に浸りきってしまうのか、その泥沼から何とかして這い上がろうと努めるのか。

tenor-3.jpg100年にひとりの逸材と言われ、リリコ・スピント(繊細さと力強さを兼ね備えた稀有な声)で人々を魅了してきた韓国のオペラ歌手、ベー・チェチョルの再起の物語を綴ったのが、この映画だ。彼の後押しをしたのが、彼の声に魅せられ、彼の復帰を心から願って奔走した日本人プロデューサーだったという点に、胸の奥がぽっと明るくなる。韓国と日本、距離的にはとても近いのに、歴史に刻まれた深い溝がその距離を遠く感じさせる両国。そういうことを考えれば、国と国よりも、個人と個人がもっと心を開き合えば、その距離はぐっと近くなるはずだ、と思う。

オペラの本場ヨーロッパで、めきめきと実力を発揮していたチェチョルに、日本人の音楽プロデューサー沢田が「ぜひ日本で公演を」という話を持ちかけてきた。それが、チェチョルと沢田との出会いだった。日本での公演も大成功を収め、彼ら二人は仕事を通じて、お互いに友情ともいえる気持ちを抱き合った。しかし、ヨーロッパに戻ったチェチョルは、甲状腺がんのために倒れ、手術によって、何よりも大切な声を失ってしまう。

tenor-2.jpg本当に困った時に助けてくれる人こそ、真実の友。ここからが、沢田とチェチョルの真の関係が深まっていくのである。声を失った歌手に対する世間の風当たりは厳しく、その風はチェチョルのプライドを粉々に打ち砕いていくのだが、沢田はけして諦めない、チェチョルが不死鳥として羽ばたくその時まで。さらに、「もう一度、歌いたい」というチェチョルの切望が奇跡を呼び起こすのだ。

私の大好きなテノール歌手、ホセ・カレーラスもそうだった。やはり、リリコ・スピントと呼ばれた彼だが、絶頂にあった時に白血病になった。だが、復帰してからのカレーラスの声は、一段と深みが増したように思う。この映画ではオペラの名曲の数々が登場し、吹き替えでチェチョル本人の美しい声が聞けるのだが、たぶん彼もきっと同じなのではないか。挫折を知り、這い上がったからこそ生まれる芸術上の深み。そういうものが声に含まれているはずだ。ユ・ジテ、伊勢谷友介、それぞれの熱演が画面に力を与えている。コミカルな雰囲気をまとった北乃きいが、物語のスパイス的な役柄を演じているのも面白い。

(宮田 彩未)

公式サイト⇒ http://the-tenor.com/
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