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『フライト・ゲーム』

 
       

flight-game-550.jpg『フライト・ゲーム』

       
作品データ
原題 Non-Stop 
制作年・国 2014年 アメリカ 
上映時間 1時間47分
監督 監督:ジャウマ・コレット=セラ             脚本:クリス・ローチ/ジョン・リチャードソン  
出演 リーアム・ニーソン/ジュリアン・ムーア/ミシェル・ドッカリー/ルピタ・ニョンゴ
公開日、上映劇場 2014年9月6日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 ほか全国ロードショー

 

~ヒッチコックも驚く“予測不能”活劇サスペンス~

 

 上空1万2000㍍、旅客機内の密室サスペンス、容疑者は乗客146人全員、犯人の予告通り機内で一人ずつ殺されていく。犯人は連邦保安官??…本格推理並みの上質ミステリー、プラス手に汗必至のアクション。シブさで売るリーアムおやじがギリギリまで追い詰められ、逆襲に転じる痛快無比の逸品。すげえ、よーやる!

flight-game-2.jpg 世界各国で大反響のアクション大作、メディアの反応も秀逸だ。感心したのは“アガサ・クリスティと「ダイ・ハード」の邂逅”“ニーソンは21世紀のチャールズ・ブロンソン”。会心作『フライト・ゲーム』の真髄がこの二つで分かる。  作風はクリスティか、犯人不明の車中(機中)サスペンスなら『バルカン超特急』のヒッチコック。とことん追い詰められて、コワ~い顔で反撃に出るのは『狼の挽歌』のブロンソンだ。 連邦保安官ビル(リーアム・ニーソン)がNY発ロンドン行き旅客機に乗る。いつものように乗客チェックしていると、携帯で話しながら乗り込んで来た女ジェン(ジュリアン・ムーア)がビルの隣の男に「席を替わって」と。怪しい女第1号だ。

 真夜中、トイレ喫煙から帰って来たビルの携帯に送信者不明のメール。「この回線への侵入は連邦犯罪だ」と伝えると「機内トイレの喫煙も犯罪だ」。犯人は機内にいる!そして「指定の口座に1億5000万㌦送金しなければ、20分ごとに機内の誰かを殺す」と“脅迫メール”。事態不明のまま20分刻みの“最後通諜”を突きつけられたビルはどうするか?

flight-game-3.jpg 同乗の連邦保安官ハモンドは「いたずら」と決めつけ、機長から運輸保安局に通報すると「(乗客調査は)時間がかかる」と言われ、やむなくビルは客室乗務員とジェンに機内の携帯使用チェックを依頼する。

 頻繁にメールを見ていたのはもう一人の航空保安官ハモンド。トイレに逃げた彼を追ったビルは激しい抵抗にあい、殺してしまう。犯人からは「やっちまったな」のメール。やつはどこにいるんだ?

 敵が見えない、というより全員が敵に思える恐ろしさが複雑極まりない“現代の犯罪”。ビルには暗い過去があり、保安局が調べると送金指示された口座は何と「ビル名義」。保安官は一転、第一容疑者になってしまう。そんなあほな…“主人公=犯人”なんて、本格ミステリーなら掟やぶりの手法だ。

flight-game-4.jpg 2人目は機長が謎の突然死。思い余ったビルが機内捜索する時はもはや乗客全員が彼を犯人視する。“第三の殺人”はビルが容疑者と特定した男。彼もまた、あっけなく死んでしまう。3人の死に絡むビルに、保安局は「任務を解く」と厳命する。絶対権力のはずの機内で彼は孤立無援、絶体絶命。やがて機内で爆弾発見、姿を見せない犯人は一体誰? どこに居る? 次から次へ予測不能のドラマが立て続けに起こり、文字通りノン・ストップ(原題)でぐいぐい引きずり込んでいく展開はお見事。

  連邦保安官ビルは混迷アメリカ映画の“新たなヒーロー像”だろうか? 冒頭から勤務直前にウィスキーをあおる彼は一目でアル中、タバコもやめられない。娘を亡くし、NY市警も退職していた。頼もしい英雄どころか、傷だらけのくたびれおやじだった。絶対の強さで頼もしかったジョン・ウェインやスティーヴ・マックィーンじゃない。クリント・イーストウッドでも、近年頑張るトム・クルーズでもない。“世界の警察”たりえない今のアメリカの姿ではないか。

flight-game-5.jpg  観客が撮った機内映像がテレビで流れ、ビルは乗客たちの白い目の中で「報道は本当だ」と認めながらも「俺はハイジャックなどしない」と最後の一線を主張する。

  スマホによるメール連絡や捜索、スマホ・プログラマーの協力による犯人探しなど“現代の犯罪”をとらえつつ、誰もが犯人に思える捜索には“疑心暗鬼”に陥った世界の様相までが見て取れる。ようやくたどり着いた真犯人も、その動機もまさに驚き。予測不能のまま、最後のランディングまで息もつかせぬ上出来のパニック・サスペンスだ。


   ジェット機時代、航空機サスペンスはハリウッドの十八番。墜落危機の旅客機と管制塔の緊迫ドラマ『大空港』('70年)は名作として名高い。セスナとぶつかったジャンボ機を救出する離れ業を描いた『エアポート75』はパイロット全員操縦不能になり、なんとスチュワーデスが司令塔の指示で着陸に挑むスリルが秀逸だった。 このエアポート・シリーズは、海に堕ちた旅客機を救う『~ 77』、コンコルド旅客機と戦闘機の追撃で魅せたアラン・ドロン、シルビア・クリステルの『~80』まで続き人気を集めた。墜落にハイジャック、全員が一蓮托生の航空機サスペンスは現代の表現に最高の題材に違いない。

  その名もズバリ、『ハイジャック』('72年)では初めてジャンボ機が登場し、以後、凶悪犯罪ハイジャックが主要テーマになる。中でも衝撃だったのは'96年『エグゼグティブ・デシジョン』。テロリストがジャンボ機をハイジャック、米軍が空中で特殊部隊を送り込む、という奇抜な作戦を決行する。毒ガスによる大量殺人計画、ワシントンを目指す設定は、衝撃の「9・11」を予見していたと見られた。この映画では、強い男代表のスティーヴン・セガールがあっけなく死んでしまい驚かせた。“ヒーローが消える”映画でもあった。

  『フライト・ゲーム』の製作を務めたジョエル・シルヴァーはこの『エグゼクティブ・デシジョン』のプロデューサーでもあった。『~デシジョン』で脇役だった連邦保安官が、18年後、人生に疲れはてながらもヒーローを死守しようと悪戦苦闘する姿が“9・11”後のヒーロー像なのかも知れない。

(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://flight-game.gaga.ne.jp

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