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『バルフィ!人生に唄えば』

 
       

barfi-550.jpg『バルフィ!人生に唄えば』

       
作品データ
原題 BARFI!
制作年・国 2012年 インド 
上映時間 2時間31分
監督 監督・脚本・原作:アヌラーグ・バス
出演 ランビール・カプール、プリヤンカー・チョープラー、イリヤーナー・デクルーズ
公開日、上映劇場 2014年8月22日(金)~TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、 TOHOシネマズ西宮、ほかロードショー 10月18日(土)~シネマサンシャイン大和郡山、塚口サンサン劇場

 

~言葉に頼らず心を通わせること~

 

barfi-4.jpg 大切なのは、何よりも自分のココロだということを、この映画は教えてくれる。人間、生きている限り、常にいろんな選択に迫られる。リスクを計算し、頭で考え、将来を案じる。でも、それで本当にいいのか。この映画は、普段の生活で見失いがちな、“ココロにしたがうこと”の尊さを教えてくれる。

 手話の教室で教える、老いたソーシャルワーカーのシュルティが語る回想として映画は始まる。現在と過去を行ったり来たりしながら、彼女が初めてバルフィに出会った1972年と、再会した1978年の二つの時代にスポットを当てる。三人の男女の人生模様が描かれ、すてきな夢物語を観ていたような気持ちになる。

barfi-2.jpg バルフィは、生まれつき耳が聞こえず、話もできない青年。身振り手振りで表情豊かに思いを伝え、まわりの人を楽しませ、笑いを呼ぶ。自分の感情に正直で、好きな人にはストレートに想いをぶつける。美しいシュルティに出会い、ひとめぼれで猛アタック。初めは婚約者がいるからとそっけなかったシュルティもいつしかバルフィに心を寄せるが、母の言葉に従い、裕福で大学出の婚約者との結婚を選ぶ。恵まれた生活でも、夫との間に愛を見出せずうつろな日々を送っていたシュルティは、ある日、偶然、バルフィと再会する…。

 ジルミルは自閉症の少女。資産家の孫娘で、両親に疎まれ、施設に預けられて育つ。思っていることをうまく言葉にできず、時にパニックを起こすが、自分の気持ちに正直なのはバルフィと同じ。ジルミルもまた、幼なじみのバルフィに再会し、“事故のように恋に落ちる…。”バルフィとシュルティとジルミル、三人の奇妙な共同生活が始まる…。歌や音楽が恋人たちの愛を、時に哀しく、時に楽しく彩る。

barfi-3.jpg バルフィが、全身をつかった身振りと表情で、あるいは、見つめ合う瞳の力だけで、懸命に思いを伝えようとする姿が心に残る。バスター・キートンやチャールズ・チャップリンの無声映画をほうふつさせるシーンも楽しくなごませてくれる。ジルミルが、美しいシュルティにあこがれ、サリーのようにマフラーをまとおうとするところも可愛らしい。言葉を介さないコミュニケーションがきらきらとしてすてきだ。

 北野武監督の映画『あの夏、いちばん静かな海』にもあった恋人同士の呼びかけの合図をするバルフィの姿が涙を誘う。シュルティが、耳が聞こえないバルフィに、“ある声”を伝えるクライマックス。彼女の勇気と優しい微笑みに胸打たれる。大切な時に“ココロ”に従わなかった後悔をずっと抱き続けたシュルティ。そんな彼女の切なくも凛としたたたずまいがあってこそ、バルフィとジルミルの人生は一層輝きを増し、物語は深みを帯びて迫ってくる。

barfi-5.jpg  身体に不自由があっても、皆が生き生きと明るく暮らすインド社会のエネルギッシュな豊かさも伝わる。“ココロの声”を聴きつつ、“今”を懸命に生きていれば、それだけで十分。その人生は尊く、祝福されるはず…。シュルティの落ち着いた優しい声色のモノローグは、そんなことを感じさせ、深い余韻が残る。 

 (伊藤 久美子)

公式サイト⇒ http://barfi-movie.com/

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