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『テロ,ライブ』

 
       

terrorlive-550.jpg『テロ,ライブ』

       
作品データ
原題 THE TERROR, LIVE  
制作年・国 2013年 韓国
上映時間 1時間38分
監督 監督・脚本:キム・ビョンウ
出演 ハ・ジョンウ『ベルリンファイル』、イ・ギョンヨン『新しき世界』、チョン・ヘジン『アンティーク ~西洋骨董洋菓子店~』
公開日、上映劇場 2014年8月30日(土)~ ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、テアトル梅田、9月27日(土)~京都みなみ会館、今秋~元町映画館 ほか全国順次公開

 

~“謝らない国”の大統領に「謝れ!」~

 

  “本音の映画”が韓国の真髄、スキのない展開にリアルな緊迫感、アブない領域に大胆に踏み込むあたりはハリウッドでもマネが出来ない。

terrorlive-2.jpg  主人公は不祥事でテレビ・キャスターを降ろされ、ラジオ局に左遷された国民的人気アナ、ヨンファ(ハ・ジョンウ)。彼の番組にパクと名乗る建設作業員から「橋に爆弾を仕掛けた。これから爆破する」と電話がかかる。いたずらと考えたヨンファが「やってみろ」と電話を切ると、直後に放送局前の漢江にかかる橋が爆発する。脅迫は本物だった…。

  この事態にどう対処するか、に多様な人間の思惑が交錯。社会やメディアが抱える問題が浮かび上がる。韓国映画の容赦のなさが凄い。

  犯人の要求通り、ヨンファは警察に通報しない。事件を、復帰への千載一遇のチャンスととらえ、彼を左遷したチャ局長(イ・ギョンヨン)と取引、テレビでの全国独占生中継の約束を犯人から取り付ける。そのやりとりを聞いていた犯人は21億ウォンを超えるばく大な“出演料”を要求。躊躇するヨンファを尻目に、視聴率目当ての局長が送金してしまい、前代未聞の「テロ、ライブ」中継が始まる。「テロに屈しない」国なら無理だろう。

  栄光の座を失ったキャスターの一発逆転狙い、“視聴率70%以上”で取締役昇進を目論む局長、加えて30年間、地道に仕事してきたのに報われなかったという犯人の事情も明かになる。「2年前、仲間3人が橋の補修事故で死んだのに謝罪がなかった。“出演料”は補償金、大統領が謝れ」と要求する。やむを得ず、ヨンファが大統領秘書官に電話すると「大統領が行く」と…。「えっ、ホンマ?」である。

  念の入った脅迫に犯人側の事情…サスペンスフルな展開は日本映画の傑作『新幹線大爆破』(75年、佐藤純弥監督)をほうふつさせる。新幹線に制限つきの爆弾を仕掛けた犯人たちのやむにやまれぬ事情が丹念に描写され、新幹線の乗客以上に興味を引かれたものだ。

  “無茶な要求”は長谷川和彦監督『太陽を盗んだ男』(74年)が有名。犯人、原爆を作った男(沢田研二)の「プロ野球完全テレビ中継」、「ローリング・ストーンズの来日」がケッサクだった。いずれも当時は不可能視された“難問”だが、荒唐無稽で人を食った要求は笑えた。「切実な要求がない」犯人の空虚の表現だった。現在ではどちらも実現しているが…。

  テロライブでも「爆弾がなかったらこちらの言うことを聞いたか?」という犯人の言い分はもっとも。だが、人を巻き込む爆破テロなど言語道断、犯人に同情の余地などないが…。

  放送局ではテロ対策班の女性捜査官が指揮を取り、待っていた大統領に代わって局にやって来たのは、やたら高飛車な警察庁長官だった。そう簡単に国や権力は動かない。

terrorlive-3.jpg  「絶対に見つけだして殺す」と高圧的に犯人を脅す長官は、犯人が仕掛けた爆弾であっさり殺され、ヨンファのイアホンにも爆弾が仕掛けられていると分かって、何も出来ない自分の“判断ミス”を思い知る。が、時すでに遅し。事態は最悪の方向へと転がっていく。謎の犯人の正体も含めて、凄まじいエンディングへとなだれ込む…。

  韓国で合作映画を撮ってきた日本人監督に聞いたことがある。「あちらのスタッフの仕事ぶりは熱い。だけど、謝らないからなあ」。国民性の違いを肌で感じたそうだ。「大統領に謝罪要求」するのがどれほど無謀か、というより、これは無理を承知の“自爆テロ”でもあった。犯人は「大統領が謝りさえすれば(橋の上の)人質も解放する」とまで譲歩したが…。

  お隣の国の事情をとやかく言えるものではないが、映画から見えてくるのは社会全体の“腐敗体質”だ。日本も大差ないかも知れないが、お隣のそれはもっと徹底しているように思える。今年4月の「セウォル号沈没事故」のお粗末極まりない原因とその悲惨な結末は記憶に新しい。韓国政府は事故で首相が辞任、支持率が急降下した大統領も発生から13日経ってようやく「事故予防が出来ず、初動対応や収拾が不十分だった」と謝罪したが、これはあくまで非公式だった。

  セウォル号事故の前に作られた「テロ、ライブ」はもっと過激の事件だが、関係者それぞれが自分の思惑だけで動く有り様、図式、それに大統領が謝らないあたりはそっくりではないか。

  画面には出てこない大統領をはじめ、登場する秘書官、警察庁長官、テロ対策捜査官、放送局局長やキャスターらが、政府やメディアの本性をさらけ出す、この徹底した批判精神は日本映画にはマネの出来ないものだろう。

 (安永 五郎)

公式サイト⇒ http://terror-live.com/

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