『アルゲリッチ 私こそ,音楽!』
原題 | bloody daughter |
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制作年・国 | 2012年 フランス,スイス |
上映時間 | 1時間36分 |
監督 | ステファニー・アルゲリッチ |
出演 | マルタ・アルゲリッチ,スティーヴン・コヴァセヴィッチ,シャルル・デュトワ,リダ・チェン,アニー・デュトワ,ステファニー・アルゲリッチ |
公開日、上映劇場 | 2014年9月27日(土)~Bunkamuraル・シネマ, 10月4日(土)~シネ・リーブル梅田、T・ジョイ京都、 10月11日(土)~シネ・リーブル神戸 他にて全国順次公開! |
~“女神”の娘が映す家族のドキュメンタリー~
観ている途中,映画界の巨匠フランシス・フォード・コッポラの娘であるソフィア・コッポラを唐突に思い起こした。クラシック界の女神マルタ・アルゲリッチの娘であるステファニー・アルゲリッチによる初監督長編映画だ。日本題名からピアニストとしてのマルタの真髄に迫る映画を予想していると,いきなりステファニーの出産から始まり,マルタという一風変わった母親にプライベートな視線が注がれる。原題は「BLOODY DAUGHTER」だ。
ブラッディーの意味は映画の中で明らかにされるが,血塗られたようなマイナスのイメージはない。マルタは,ブエノスアイレス生まれで,2回の離婚を経験している。最初の夫との間に長女リダ・チェンを,二番目の夫との間に二女アニー・デュトワをもうけ,スティーヴン・コヴァセヴィッチとの間に三女ステファニーをもうけた。この一見ばらばらな家族の中で,ステファニーが自分自身を見詰めながら,改めて自らの母親を掘り下げる。
ピアノを弾いている姿を映す場合,通常であれば,その指先や上半身をクローズ・アップする。ところが,ステファニーは,ピアノを弾いているマルタがペダルを踏む足をアップで撮っていた。ペダルの技法や効果を示そうというのではなく,娘が幼い頃から見慣れた母親のピアノを弾く姿を映している。もちろん,カメラは,ピアニストとしてのマルタの一面をもしっかりと捉えていた。それもまた,マルタという母親の一部であるのだから。
マルタは,毎年東京で開催されるラ・フォル・オ・ジュルネ2014で5月3日夜ギドン・クレーメルらと共演している。本作でも映されている別府アルゲリッチ音楽祭は,第16回が無事終了したようだ。音楽は説明するものではなく,感じるものであり,言葉を超越するものだ,とマルタは言う。本作もまた,母親でありピアニストであるマルタを説明する映画ではなく,家族を,その中の母親を感じるものであり,言葉を超越するものとなった。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://argerich-movie.jp
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