『めぐり逢わせのお弁当』
原題 | Dabba |
---|---|
制作年・国 | 2013年 インド・フランス・ドイツ |
上映時間 | 1時間45分 |
監督 | 監督・脚本:リテーシュ・バトラ |
出演 | イルファーン・カーン、ニムラト・カウル、ナワーズッディーン・シッディーキ、デンジル・スミス |
公開日、上映劇場 | 2014年8月16日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、8月30日(土)~元町映画館 にて公開 |
~お弁当に込めた想いを受け止めてくれる人――誤配から始まる恋ごころ~
「料理上手な奥さんを持った旦那さんは果報者だ」と私は思う。だが、それが「当たり前」と考え、妻の気持ちをないがしろにしてしまう罰当たりな夫もいる。『マダム・イン・ニューヨーク』の夫がそうだ。『めぐり逢わせのお弁当』に登場する夫も心は妻から離れてしまっているようで、妻はせっせとお弁当に愛を込めて作るがその想いは届かない。それもそのはず、お弁当そのものが夫の元に届かず、他の男性の所へ誤配されてしまったから、さあ大変!
『マダム・イン・ニューヨーク』の主人公は、ニューヨークでフランス人のラブコールを受けながらも、ロマンスより新しい自分を構築することで尊重し合える家庭を選択したが、本作の主人公はそうではない。本当の自分の気持ちを受け止め、お互いの人生をより意味深いものに導き合える見も知らぬ男性を選んでしまう。これは革新的妻の登場ですよ!と言っても、SNSで知り合った相手と駆け落ちするのとは意味が違う。愛のスパイスを効かせたお弁当で心をほぐし、手紙のやりとりでお互いの孤独を理解し合う。そして、これからの人生に何が必要か、はっきり見据えてから行動するのだ。
夫が亡くなってから「愛のない夫婦生活だった」と寂しそうに語るイラの母親や、10年も寝たきりの夫が「命のともし火」と思い込んでいる天井のプロペラ式扇風機が止まらないよう常に気を揉む叔母のエピソードなど、相手のことを如何に思い遣れるかで幸せ度が計り知れるようだ。また、貧しい身分から明るく逞しい向上心を見せるサージャンの後任の若者の姿など、僅かしか登場しない周囲の人物像や環境の描写で、主人公ふたりの求めるものが見えてくる。近年のインド映画にはない簡潔さで、人生を切り拓く勇気を感じさせてくれる。
【STORY】
ムンバイ郊外の集合住宅に住むイラ(ニムラト・カウル)は、ビジネスマンの夫と小学生の女の子と3人で暮らしていた。最近、夫はイラや娘と談笑することもなく、携帯で誰かと親しげに話してばかり。夫の心を取り戻そうと、イラはせっせと愛のスパイスを効かせたお弁当を作っていた。頼りになるのは、一度も姿を見せない階上に住む陽気な叔母だ。香りだけで何が過不足かいつでも適切なアドバイスをしてくれ、また寂しい時にはイラの好きな音楽をかけてくれる優しい存在だ。
そのお弁当が、ダッパーワーラー(お弁当配達人)の手によって夫の職場ではなく、定年退職間近のサージャン(イルファーン・カーン)の元に間違って届けられた。いつも近所のデリバリーに頼んでいたサージャンは、思いがけないご馳走に驚くが、完食! きれいに食べられたお弁当箱を見てイラは喜ぶが、肝心な夫は無反応。それからというもの、イラとサージャンは愛情の込められたお弁当と手紙のやり取りによってお互いを理解していくことになる。
経済成長著しいインドの中心都市ムンバイ。そこでは、作り立てのお弁当を家庭から職場へ届けてくれるダッバーワーラー(お弁当配達人)と言われる人々がいる。毎朝入浴を済ませてから各家庭にお弁当を受け取りに行き、1グループ(4~5人)がリレー方式で、ビジネス街にいる夫の職場に届ける。誤配は600万分の1の確率だという。あれほどの数のお弁当をピンポイントに届けられるなんて、驚異的だ!そのシステムには世界の要人も注目しており、インド社会では身分の低いダッパーワーラーの人々は、自信と誇りを持って働いているという。イラが「配達先を間違えている」と指摘しても、「絶対あり得ない!」と誤配を認めようとしないおじさんを見れば、その自信の程がうかがえるというもの。
★新婚の頃の、人様に見られても恥ずかしくないようにと頑張ってお弁当を作っていた頃を思い出した。ある日、夫の先輩に、「河田君の隣でウチの弁当なんか恥ずかしくて広げられないよ」と言われたことがある。ちょっと頑張りすぎたかな?と反省した……あれからウン十年、今では超手抜き!!! 「とても人様の前では広げられない」とこぼす夫。それでもきれいに完食したお弁当箱を差し出す夫に、「何が一番美味しかった?」と聞くと、「ごはん!」というお返事。「やっぱり」と妙に納得してしまった!?
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://lunchbox-movie.jp/
(C)AKFPL, ARTE France Cinema, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm – 2013