『ぼくを探しに』
原題 | ATTILA MARCEL |
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制作年・国 | 2013年 フランス |
上映時間 | 1時間46分 |
監督 | シルヴァン・ショメ |
出演 | ギョーム・グイ、アンヌ・ル・ニ、ベルナデット・ラフォン、エレーヌ・ヴァンサン |
公開日、上映劇場 | 2014年8月2日(土)~シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸 にて公開 |
~失われた記憶に向き合う旅~
マダム・プルーストが奏でるウクレレの響きが心に優しく流れ込む。音楽に導かれ、記憶をたぐりよせる旅は、ファンタスティックで風変わり。それもそのはず、監督は、『ベルヴィル・ランデブー』のシルヴァン・ショメ。本作が初の長編実写映画。カラフルで不思議な世界へと誘う。
33歳のポールは、伯母姉妹と暮らし、ピアニストを目指す青年。2歳の時、両親を失い、そのショックでしゃべれなくなる。友だちもなく、伯母たちのダンス教室でピアノ伴奏をする日々。ある日、同じアパートに住むマダム・プルーストに出会い、マダムのつくる不思議なハーブティーを飲んで、記憶をさかのぼる旅を始める…。
ポールにとってずっと気がかりだったのは、若くして亡くなった美しい母のこと。呼び覚まされる両親の記憶は、嬉しいものもあれば、悲しい思い出もある。記憶の世界から現実に戻り、笑ったり涙ぐんだりするポールを、マダムがあたたかく受け止める姿がいい。無表情で、ぎくしゃくした動きで、成長を止めた人形のようにも見えたポールが、初めて見せる表情にどきりとする。言葉を介さない分、ポールの思いは観客の心にまっすぐ飛び込んでくる。
マダムの部屋がすてきだ。家主に内緒で、床に土を入れ草花を育て、窓辺には植木鉢が並ぶ。緑あふれ、光きらめく中、ポールとマダムが向き合ってテーブルに座る姿は、アパートの中とは思えないほど解放感に満ちている。マダムが、音楽を、自然を愛する、謎を秘めた女性として、魅力たっぷりに描かれる。いろんな人の悲しみに寄り添うことで、他人であっても優しく包み込めるようになったのだろうか。ポールを見守る表情が心に残る。
マダムが、記憶を魚にたとえ、水たまりの中に釣り針をたらして、記憶を釣り上げるとポールにしゃべる。そんなエスプリも随所にたっぷり。悲しい記憶も、まわりの人のあたたかな愛情を感じることで、乗り越えていける。ポールは、マダムと出会い、両親の生き様を知ることで、自分がとらわれていた枷から自由になり、自分らしく生きる道を獲得していく。
伯母姉妹は、いつも同じ色の服装で、仕草まで同じで楽しい。ポールを愛するあまり、怖いときもあるが、さくらんぼの種を豪快に飛ばしたりして可愛い。本作は、姉妹の一人を演じるベルナデット・ラフォンの遺作となった。
音楽はすべて3拍子というこだわりぶり。色鮮やかな衣装、部屋の中のインテリアと、つくりこんだ映像世界が広がる。登場人物も皆、個性豊かで、ユーモアいっぱい。マダムの残したぬくもりが心にほんのりと残り、ポールと一緒に、またマダムの秘密の部屋を訪ねていきたい気持ちになる。
(伊藤 久美子)
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