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『ケープタウン』

 
       

capetown-550.jpg『ケープタウン』

       
作品データ
原題 Zulu 
制作年・国 2013年、フランス 
上映時間 1時間47分 R15+
監督 監督・共同脚本:ジェローム・サル
出演 オーランド・ブルーム、フォレスト・ウィテカー、コンラッド・ケンプ
公開日、上映劇場 2014年8月30日(土)~新宿バルト9、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、109シネマズHAT神戸 ほか全国ロードショー

 

 ~少女殺人の裏でウィテカー警部が見たもの~

 

capetown-2.jpg  アパルトヘイトから脱却したはずの南アフリカ・ケープタウンで子供の失踪事件が多発する。そんな中、人気ラグビー選手の娘(白人)が惨殺される。捜査に当たるのは強行犯撲滅課のまじめ警部アリ(フォレスト・ウィテカー)と、アル中のハチャメチャ刑事ブライアン(オーランド・ブルーム)。2人はヤバい連中相手に、ハードな捜査を始めるが、調べるうち、組織の恐るべき陰謀が全貌を現す…。

  少女殺人と前後して、黒人の子供が姿を消す事件が頻発。これが南アフリカだ、と言うような犯罪が明らかになっていく。果てしない差別の根深さに慄然とする。

  黒人と白人の刑事コンビは、メル・ギブソン&ダニー・グローヴァーの「リーサル・ウェポン」シリーズはじめハリウッド映画の1ジャンルだが、南アではより複雑な意味が生じる。アリは堅物の家庭人で緻密な仕事ぶり。だが上司の署長は人種差別主義者としてかつて黒人を虐待した憎むべき男。本来は敵役なのだが、マンデラ大統領の偉大な「赦し」政策で罪を告白して元の職務に。贖罪のつもりか、アリを警部に昇進させた恩人でもある。彼の複雑な心情は想像に難くない。屈折した感情を抱えるウィテカーの苦渋に満ちた表情がこの映画の本質だろう。

capetown-3.jpg  一方のブライアンは白人だが女にだらしなく、署長からは“クソ扱い”されているものの、アリには信用され、相棒を務める。性格の異なる2人の“バディ・ムービー”は映画の味付けなのだが、この2人には特別な意味がある。融通効かないがひたむきに捜査する黒人警部の味方が、破れかぶれ白人ブライアン一人だけ、という事実が南アフリカの現状だろうか。

  南アの犯罪の凶暴さがえげつない。聞き込み中にアリが街で見た子供のケンカは、あきれる過激さ。一人の子供をようやく土管に追い詰めたものの、子供はついに出てこない…。黒人の子供が消える社会には、不気味なキナ臭さが漂う。一体何が起こっているのか?  捜査も命懸けだ。危なそうな海辺の男たちに聞き込みをかけたらいきなり銃で反撃され、相棒の一人が刀で殺される。刑事アクション得意のアメリカ映画もびっくりの過激さに舌をまく。

 


 
【五郎ちゃんのシネマの泉】 ~3人のアフロアメリカン~ 
  ハリウッドでアフロ・アメリカンのパイオニアとなったのはシドニー・ポワチエ。ケネディ大統領が支援した公民権運動盛んな60年代初頭、多くの良心作、問題作に主演して高く評価された。ラルフ・ネルソン監督『野のユリ』(63年)で黒人初のアカデミー賞主演男優賞を受賞、歴史的快挙だった。

  スタンリー・クレイマー監督『招かれざる客』(67年)に印象深いシーンがある。白人の娘が婚約者としてポワチエを連れて家族に紹介し、両親をびっくりさせる。父親(スペンサー・トレイシー)と母親(キャサリン・ヘップバーン)は、驚きながらもチョコのアイスクリームを買い求め「これも食べてみたらおいしい」と、実に分かりやすい表現で“新しい家族”を受け入れた。古き良きアメリカを代表する名優トレイシー、ヘップバーンのコンビもポワチエは納得させた。  オバマ大統領の現代では考えられないことだが、厳しい差別が露骨にあった白人優先社会で、アフロアメリカンはマイノリティかつ“異物”だった。そんな中、ポワチエは理想的なアフロアメリカンとして白人社会に受け入れられた。一部同胞からは「ショーウィンドウの中の黒人」と揶揄されもしたが。

  ポワチエの後を継いだのはデンゼル・ワシントン。彼も知的なマスクで人気と信頼を集め『トレーニングデイ』(02年)でアカデミー賞主演男優賞受賞。ポワチエ以来、黒人俳優2人目の栄誉の同じ日、ポワチエがアカデミー賞名誉賞に輝いたのも偶然ではないだろう。

  ワシントンは『マルコムX』(92年)、『ハリケーン』(99年)などアフロアメリカン映画にも多数出演する“代表選手”となったが、名優続出する中で、独自の存在感を見せてきたのがフォレスト・ウィテカーだ。 二枚目とは言い難い独特のマスクで演じる複雑なキャラは一度見たら忘れられない。最も印象深いのはクリント・イーストウッド監督『バード』(88年)。屈折した過去を持つ天才サックス奏者チャーリー・パーカーを演じてカンヌで主演男優賞を取った。昨年の『大統領の執事の涙』の7人の大統領に仕えた名物執事役は、ウィテカーしか出来なかったのではないか。

  監督、製作業にも進出しているウィテカーの仕事の中でも注目は昨年(製作)の実話の映画化『フルートベール駅で』。09年1月、カリフォルニア・オークランドで黒人青年が白人警官に射殺されながら警察がもみ消そうとした事件を描いた作品は、大きな反響を呼んだ。 ケネディ大統領の公民権運動から半世紀を経ても、黒人が簡単に殺されてしまう事実は無残としか言いようがない。「何にも変わっていない」思いを痛感した。
 


 
  『ケープタウン』では最重要容疑者の首を見つけたことから署長は事件解決と命令を下すが、子供の集団墓地を見つけ「黒人だけを殺す」化学兵器の存在を突き止めたアリの怒りは収まらない。悪の巣窟にライフルを手に乗り込む彼は、もはや警官ではなく「違法は承知の上」の私憤。『昭和残侠伝』の高倉健さん顔負けの壮絶な殴り込みが痛快なカタルシスだった。

    (安永 五郎)

 公式サイト⇒ http://capetown-movie.com/

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