『マルティニークからの祈り』
原題 | Way Back Home |
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制作年・国 | 2013年 韓国 |
上映時間 | 2時間11分 |
監督 | パン・ウンジン |
出演 | チョン・ドヨン、コ・ス、カン・ジウ、ぺ・ソンウ、コリンヌ・マシエロ他 |
公開日、上映劇場 | 2014年8月29日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 ほか全国ロードショー |
~悪夢のような765日間を耐え抜いた韓国人女性の魂の叫び~
麻薬だと知らずに荷物を運んだために、言葉の通じない異国の地で長期間にわたって刑務所に収監される…想像しただけでも身がすくむのだが、この映画で語られていることは、実際に起きたこと。温和な夫や可愛い盛りの娘と仲むつまじく暮らしていた主婦なのに、彼女の生活が激変する。
夫・ジョンべの友人が高額の負債を抱えたまま自殺し、ジョンべがその借金の保証人になっていたために、家族は困窮に陥る。家賃も食費もままならぬ日々、別の友人が「金の原石をフランスに運ぶだけで大儲け」という話を持ち込んでくる。意を決した妻のジョンヨンは、夫に内緒でその荷物をフランスまで運ぶ。しかし、到着したパリのオルリー空港で、荷物の中身は金の原石なんかじゃなく、実は大量のコカインだったことが発覚、麻薬の不法所持で逮捕されてしまう。
その後、フランス本国からカリブ海のマルティニーク島にある刑務所へ。夫とも満足に連絡をとれず、いつ帰れるのかもわからない。韓国大使館のいい加減な職員はちっとも力になってくれず、それどころか、裁判のための大切な書類をずさん管理で廃棄してしまう。映画を観ているこっちも怒りで震えそうになる。
不幸に見舞われたヒロインを演じるチョン・ドヨンがとにかく素晴らしい。不安、後悔、家族への申し訳なさと愛おしさ、苛立ち、怒り、絶望…そういった感情を、ある時は胸に押し込め、ある時は爆発させる。マルティニーク島を訪ねた夫との再会シーンや、やっと開かれた裁判において憔悴した顔で語るシーンでは思わず胸が詰まった。この主婦を救うきっかけになったのが、インターネットの書き込みや彼女の“事件”について探るドキュメンタリー番組だった。マスコミやネットの功罪についてはいろいろあるけれど、彼女にとってはまさに功を奏したと言えるだろう。
自分の家に帰る、ただそれだけの自由も奪われてしまうということ。この現実世界にはそんな落とし穴が口を開けているのだと思うと、実に恐ろしい。日々、当然のごとく在るものが、本当に当然だろうか。私たちが当たり前のように享受しているものは、私たちが考えているよりもずっとすごいものではないだろうか。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://martinique-movie.com
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