『思い出のマーニー』
制作年・国 | 2014年 日本 |
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上映時間 | 1時間43分 |
原作 | 原作:ジョーン・G・ロビンソン「思い出のマーニー」(松野正子訳・岩波少年文庫刊) |
監督 | 監督:米林宏昌 作画監督:安藤雅司 美術監督:種田陽平 音楽:村松崇継 |
出演 | 声の出演:高月彩良、有村架純、松嶋菜々子、寺島進、根岸季衣 |
公開日、上映劇場 | 2014年7月19日~TOHOシネマズ梅田、OSシネマズミント神戸、MOVIX京都ほか全国ロードショー |
~時空を超えて伝えられた“愛情”が少女の心の扉を開く~
きっと、この映画を観た誰もが、12歳の多感な子どもの頃に戻って、心ひそかに大切にしていた宝物や、自分だけの隠れ家、空想の世界と、自分が心のよりどころにしていたものを思い出すにちがいない。
ぜんそくの療養で、田舎の親戚の家に預けられた少女杏奈は、入り江に面して建つ石造りの古びた洋館を見つける。かつては外国人の家族が住んでいたが、今は住む人もなく、「湿っ地屋敷」と呼ばれる洋館。杏奈は、そこで、夢の中で何度も見た金髪の少女マーニーに出会う。「わたしたちのことは永遠に秘密」と微笑むマーニーに、ボートの漕ぎ方を教えてもらったり、舞踏会にまぎれこんだり、ピクニックに出かけたり、楽しい思い出を重ね、互いに大切な友達として離れないと約束する。そんなある日、洋館に新しい住人がやってくる…。
原作は、イギリスのジョーン・G・ロビンソンの児童文学。時空を越えたファンタジーの世界を、北海道の海辺の小さな村へと移し変える。風に揺れる草原の緑、青く深みのある海と、生き生きした色遣いの映像世界は、自然の息遣いをリアルに感じさせ、マーニーが暮らす洋館は不思議な魅力に包まれ、観客は、杏奈とともに、湿っ地屋敷周辺のすてきな世界に引き入れられる。
友達もなく、自分の悩みや苦しみを誰にも打ち明けられなかった杏奈は、マーニーに、自分と相通じるものを感じ、胸の内を話すようになる。親友を得た喜びの中で、少しずつ自分の殻から抜け出し、預けられた親戚夫婦とも心を通わせられるようになっていく。杏奈が傷ついた心を回復し、他者や世界に対して心を開いていくプロセスに、マーニーだけでなく、湿地を愛する、現実世界の登場人物たちも大きな役割を果たすところがいい。ボートを漕ぐ寡黙な老人、絵描きの女性、越してきたばかりの元気な少女が、新しい友人となり、杏奈をあたたかく見守ると同時に、謎解きの導き手ともなる。
マーニーという謎めいた少女の秘密は、意外なところから解き明かされる。時空を超えて伝えられた“愛情”に、人生の機微や、懸命に生きる人間の尊さ、運命の不思議さ、深い縁(えにし)のようなものを感じずにはいられない。自分が大いなる愛情に包まれ、守られていたことに気づいた時、杏奈は、心の底から勇気づけられ、生きていく力をもらい、自分の人生に向きあえるようになる。これは、一人の少女が、マーニーに出会うことで、生き生きと自分らしく生きられるようになっていく物語。杏奈にとって、マーニーは、いわば、心の中のもうひとりの自分のような、魂につながる存在ともいえる。
映画の終盤で、マーニーが洋館の窓辺から姿を消した時、映画は、一人の少女の物語を超えて、観客それぞれの心に語りかけ、幼い頃の記憶を呼び覚ます。ひとりぼっちの寂しさ、不安、心細さがよみがえると同時に、いつも自分を守ってくれる心の中の友達、マーニーのような存在が、思い出の小箱を開けたかのように、鮮やかに心になだれ込んできた。
シンガーソングライターのプリシラ・アーンが透明感あふれる歌声で歌う「Fine On The Outside」の優しく哀しいメロディが窓ガラスをつたう雨だれのように、心の奥深くへと溶け入っていく。この歌を聴きながら、今観たばかりの映画の記憶と自分の思い出を重ね合わせつつ、あたたかな余韻に浸ってほしい。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://marnie.jp/
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