原題 | STORIES WE TELL |
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制作年・国 | 2012年 カナダ |
上映時間 | 1時間48分 |
監督 | サラ・ポーリー |
出演 | マイケル・ポーリー、ハリー・ガルキン、スージー・バカン、ジョン・バカン、マーク・ポーリー、キャシー・ガルキン、マリー・マーフィー他 |
公開日、上映劇場 | 2014年8月30日(土)~渋谷ユーロスペース、シネ・リーブル梅田、今秋~京都シネマ他全国順次公開 |
~娘の探求からはじまる、母の愛と人生の記憶を紡ぐ物語~
一見セルフドキュメンタリーのように見えるが、テーマは「語る」ことなのではないかと思った。『死ぬまでにしたい10のこと』に主演、『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』で監督を務めたサラ・ポーリーが、11歳の時に亡くなった母ダイアンの人生と自身の出生の秘密を家族や友人たちの語りによって探求していく。ダイアンが母として、女性としてどんな人生を生きたのか。それぞれの記憶を基にダイアンの生き様が再構築される過程は、ミステリーのような趣があり、他人の家族の秘密を覗き見るようなドキドキ感もたまらない。
ナレーションを担当するのは舞台俳優の父、マイケル・ポーリー。マイケルが出演する舞台に通い詰めたダイアンと結婚したものの、情熱的で太陽のように人を魅了するダイアンと正反対のマイケルとの夫婦仲は次第に冷めていった。しかし久々に単身モントリオールで舞台に立ったダイアンは、再びマイケルへの情熱が甦り、末っ子のサラが誕生。そしてダイアン亡き後はマイケルがサラを一人で育て上げた。冷静に自らの結婚生活を振り返るマイケルは、同時にインタビューの被写体として娘サラの辛辣なインタビューにも答えていく。
そんなサラに兄弟たちが小さい頃から交わしていたジョークは「一人だけ顔が似ていない」。サラの兄妹やダイアンの友人たちにインタビューを重ねるうちに浮かび上がってくる母の奔放な一面と、知られざる母の恋。深まる疑惑は、サラを真相究明に駆り立てていく。自らの出生の秘密という非常にデリケートな題材を、当事者の視点だけではなく、物語の聞き手の視点で冷静に捉え、母が死ぬまで家族に隠し通した人生最後の愛を細やかに描いている。生物学上の父とマイケルという二人の父に対し、サラがインタビューを通じて本音を聞き出す姿から、両者間の強い愛情と信頼が伝わるのだ。
インタビューの合間に、8ミリフィルムの若きダイアンや家族の映像を挿入。音楽の使い方といい、そのセンスの良さが全編に渡り効いている。また、子どもの頃の母ダイアンの些細なエピソードを意気揚々と語るサラの兄妹たちを見ていると、母は常に子どもにその姿を見られ、そして子どもの記憶に焼き付く存在なのだと痛感させられた。母の愛人の存在を初めて知り、離婚を体験した娘たちは母が真の愛を手に入れていたことを喜ぶ一方、息子はショックを隠せなかった姿もリアルだ。それぞれがダイアンに対して抱いた真実の記憶は、サラによって見事に人生の軌跡を甦らせる物語に昇華した。最後の最後まで笑わせ、驚かせてくれるウィットと構成力にも乾杯!(江口由美)
(C) 2012 National Film Board of Canada