原題 | Cerro Torre |
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制作年・国 | 2013年 オーストリア |
上映時間 | 1時間43分 |
監督 | トーマス・ディルンホーファー |
出演 | デビッド・ラマ、ペーター・オルトナー、トーニ・ポーンホルツァー、ジム・ブリッドウェル |
公開日、上映劇場 | 2014年8月30日(土)~新宿ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国ロードショー |
~若き天才が絶壁に挑む!体感型クライミングドキュメンタリー~
空に向かって真っ直ぐにそそり立つ、山というよりは猛々しいオブジェのような南米パタゴニアのセロトーレ。頂上は雪に覆われ、そこにいきつくまでは垂直、場所によっては垂直以上の傾斜がある岩の壁だ。私みたいな素人は登れればブラボー!と思ってしまうのだが、本作ではフリークライミング(ボルトなどを使わず、自らの肉体のみで挑戦)で3度も挑戦。スパイダーマンばりの強靭な肉体と精神力を持つ若き天才クライマーの果敢な姿に思わず惹きこまれる。
難易度最大級の登頂に挑むのは、笑顔が素敵な青年デビッド・ラマ。オーストリア人の母とネパールのシェルパ族の父を持つデビッドは類まれな能力を発揮し、クライミング競技の世界で若くしてワールドチャンピオンに輝いている。「誰もやっていないことをすることで、より自分自身を知る」とフリークライミングに選んだのは、難攻不落のセロトーレだった。しかし、クライマーたちの注目が熱い分、少しでも疑惑を持たれるようなことをすれば、たとえ登頂したとしても認めてもらえない。そんな過酷な状況下、3度目のチャレンジにしてやっと成功を果たすまでのデビッド・ラマチーム、そして撮影部隊も含めた3年間の軌跡を力強く捉えている。
天候に恵まれず待機をよぎなくされることが度々あり、本当にわずかなチャンスを待つことも仕事のうち。そんな中、デビッドは決して焦らず自然体だ。あどけなさが残る寝起きの表情には見ているこちらがむしろ癒されるぐらい。一方、一気に嵐と化す山の天気、もろくなっている岩場、いつ溶けるか分からない氷。命綱だけの挑戦をあざ笑うかのように、美しく堂々とそこにあるセロトーレが何度も何度も映し出され、「やれるものならやってみろ」という山からの声が聞こえてくるようだ。
3度目の挑戦にして初めて訪れた最高の天気。5年に1度のチャンス、絶対登頂すると決意を新たにし、パートナーのペーターとセロトーレに向かうデビッド。撮影陣も、反対ルートから先に登頂し、頂上で落ち合おうと声をかける。そこに「失敗」の文字はない。岩のわずかなクラックに手を奥深く差し込み、何度も体勢を変えながら、慎重に登っていく。断崖絶壁の場所での野営(一晩を過ごす)など、私だったら生きた心地がしないだろうが、デビッドたちは冷静に、そして確実に頂上を目指していく。クライミング技術はもちろんのこと、なんという強い精神力なのだろう。本人たちにとりつけられたカメラによる岩肌せまる映像が、セロトーレの断崖絶壁クライミング疑似体験させてくれ、体にぐっと力が入った。近景と遠景で世紀の挑戦に肉薄したドキュメンタリー。まだ若きデビットがさらにどんな伝説を打ち立てていくのかが、楽しみで仕方がない。(江口由美)