原題 | Floating City |
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制作年・国 | 2012年 香港 |
上映時間 | 1時間44分 |
監督 | イム・ホー |
出演 | アーロン・クォック、チャーリー・ヤン、パウ・ヘイチン、ジョシー・ホー、アニー・リウ、カールソン・チェン |
公開日、上映劇場 | 2014年6月21日(土)~シネマート六本木、7月5日(土)~シネマート心斎橋、今夏元町映画館他全国順次公開 |
~激動の香港に刻まれた、逆境から這い上がるハーフと水上生活者の記憶~
戦後間もない香港、水上で生活する蛋民(たんみん)の女が、流産した我が子の代わりに引き取ったのは中英混血の赤ちゃんだった・・・。自分のアイデンティティーに悩みながらも、貧しさから這い上がり、東インド会社初の華人重役となったボウ・ワーチェンの半生を、香港が歩んだ歴史と重ねながら描くヒューマンドラマ。80年代から香港映画界を牽引してきた『太陽に暴かれて』(96)イム・ホー監督の最新作だ。風情豊かな水上生活の様子や、ボウを演じるアーロン・クォックの熱演に注目したい。
血の繋がっていない蛋民の両親に、一家の長男として育てられたボウ。母は我が子と分け隔てなくボウに愛情を注いだが、周りは「合いの子」と偏見の目を向ける。洗礼を受け、神を知ったボウは、牧師のはからいにより学校で読み書きを勉強し始めるが、父は「漁師に学問はいらない」とボウを非難する。先祖代々漁師を生業としてきた一家の一員であるボウの生きる道は、船を買い、漁師を継ぐしかない。貧しい蛋民は、学ぶことすらままならぬ時代だったのだ。
しかし、ボウは水上生活を脱し、学校で習った読み書きや、混血の容姿を武器にして、当時「入社すれば家を買ってもらえる」と言われていた東インド会社に就職する。いち早く世界に目を向け、会社内に生きる活路を見出したボウと、息子のために船を買おうとする父とのすれ違い、そして父の急死による一家離散など、貧しさが引き起こす悲劇は今も昔も変わらない。しかし本作では、時代の波に逆らえず、水上生活者がギリギリの状態に追い詰められていく様子を彼らの目線で丁寧に描き、消えゆく水上生活者たちの姿をスクリーンに刻み込んでいる。
世界がベトナム戦争の影響を受けていた67年は、過去最大級の反英運動が勃発し、香港にとっても激動の一年だった。サッチャー首相の北京訪問および中国への返還決定と歴史的事項を盛り込みながら、東インド会社で成功を手にしていくボウ、上流階級の付き合いに馴染めず、孤独に陥るボウの妻、離散した子どもたちを引き取るために文字を習い、船舶免許取得の努力を続ける母の様子が、淡々と綴られる。成功を収める一方、自身のアイデンティティーを常に探し続けていたボウの心の闇を、アーロン・クォックが哀しみを抑えた瞳で見事に体現している。そして、海と共に生きた一家のアイデンティティーが浮かび上がるような黄金色のラストシーンは、本当に感動的だ。久しぶりに心掴まれる香港映画に出会えた。(江口由美)