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『超高速! 参勤交代』

 
       

sankin-550.jpg『超高速! 参勤交代』

       
作品データ
制作年・国 2014年 日本
上映時間 1時間59分
原作 脚本:土橋章宏 講談社「超高速!参勤交代」
監督 本木克英
出演 佐々木蔵之介、深田恭子、伊原剛志、寺脇康文、上地雄輔、知念侑李(Hey!Say!JUMP)、柄本時生、六角精児、市川猿之助、石橋蓮司 /陣内孝則(特別出演)・西村雅彦
公開日、上映劇場 2014年6月21日(土)~丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、TOHOシネマズ西宮OS、ほか全国ロードショー

 

~笑ってうっぷん晴らす“本道”時代劇!~

 

sankin-pos.jpg  お上が無理難題を下々に押し付け、甘んじて頂戴するのが武士の世界、時代劇は不条理の上に成り立つ。だけど、合理的な今の人間ならもっと要領よく出来ないか、お上の裏をかけないかと考えるはず、と登場したのが現代風味の異色時代劇『超高速!参勤交代』。無理難題を突き付けられた小藩の悪戦苦闘ぶりがメチャおかしい。

  2011年に城戸賞を最高点で受賞した脚本(土橋章宏)の映画化。東北の小藩・湯長谷藩(福島県いわき市)に、八代将軍・徳川吉宗(市川猿之介)が金山の存在を疑い「5日以内に参勤交代しなければ藩を取り潰す」と通達を出す。江戸からようやく帰参したばかりの殿・正醇(まさあつ)(佐々木蔵之介)や家老の相馬(西村雅彦)らはうんざりするが、嘆願を拒否され、恥辱を受けたと感じた正醇たちは「やってやろう」と無謀な旅に出発する。  藩の儀式でもある参勤交代は通常なら準備に半年、道中8日はかかる。貯えも尽きた彼らは一体どうするのか、加えて殿には「駕篭に乗れない」トラウマがあった。二重三重苦を抱えた江戸時代の“ミッション・インポッシブル”はいかに…という興味で引き込んでいく。さあ、一体どうする?

sankin-3.jpg  政醇はまず、一匹狼の抜け忍・雲隠段蔵(伊原剛志)を道先案内として雇い、行列を簡略化する。刀は全員タケミツ、道具類も同様、行列は寄せ集めた百姓、町人で宿役人の目をごまかす。政醇たちは精鋭6人だけで、人目のないところは山道を駆け抜ける、という大胆なだまし作戦を敢行する。果たしてうまくお上をだまし切れるかどうか、途中には抜け忍の裏切りや殿と飯盛り女(深田恭子)の恋模様といったサイドストーリーもあってスリルとサスペンスを盛り上げていく…。  時代劇の醍醐味は殺陣。勝新『座頭市』はじめ、三船敏郎『用心棒』から集団時代劇『十三人の刺客』などなど、殺陣こそが時代劇なのだが、喜劇であっても殿様や忍び一味が見せるキレのいい立ち回りが鮮やかに決まる。

  日本映画の多くが時代劇だった戦前、それは社会へのプロテストだった。阪東妻三郎の無声映画『雄呂血』(25年)は虐げられた武士が追い詰められたあげく、刀を抜いて捕り方と凄惨な斬り合いの果てに自滅する物語。その凄まじい怒りの爆発に大衆の怨念がこもった。

  名匠・伊藤大輔監督の初期時代劇『斬人斬馬剣』(29年)は鋭い社会批判として“傾向映画”と呼ばれ、映画人の抵抗精神を示した。  戦後、時代劇は様変わりしたが“封建制”根強いころにはお上の無理難題に牙剥く映画が人気を集めた。代表は小林正樹監督『拝領妻始末  上意討ち』(67年)。侍の一族が、殿様から「側室を妻に」と命じられ、反発しながらも下げ頂く。“拝領妻(司葉子)”は気立てよく、申し分ない妻で子供も生まれ、幸福に恵まれるが、殿様の世継ぎが急死したことから「下げ渡した側室を返せ」と上意が下る。耐えてきた武士がこれには「動物ではない。到底従えない」と父と子(三船敏郎、加藤剛)は一族挙げて反旗を翻す。“最後の意地”の凄まじい斬り合いは封建制への反逆の象徴でもあった。

sankin-2.jpg  時代劇に限らないが、古くから映画は勧善懲悪が基本。『水戸黄門』や『大岡越前』といったお上の側から作ったテレビ時代劇は安定人気を誇ったが、映画には“お上への反逆”は不可欠要素だった。一見、荒唐無稽、面白おかしい喜劇『超高速!参勤交代』もそんな時代劇の本筋を押さえている。現代、世はさらに様変わりしたが、映画の伝統、時代劇の精神は変わらないという証明ではないか。

(安永 五郎)

 公式サイト⇒ http://cho-sankin.jp

(C)2014「超高速!参勤交代」製作委員会

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