映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪』

 
       

seadragon-550.jpg『ライズ・オブ・シードラゴン  謎の鉄の爪』

       
作品データ
原題 狄仁杰之神都龍王 Young Detective Dee: Rise of the Sea Dragon
制作年・国 2013年、中国・香港
上映時間 2時間13分
監督 ツイ・ハーク
出演 マーク・チャオ、キム・ボム、ウィリアム・フォン、ケニー・リン、アンジェラベイビー、カリーナ・ラウ
公開日、上映劇場 2014年8月2日(土)~シネマート新宿、シネマート六本木、8月9日(土)~シネマート心斎橋、近日~元町映画館、京都みなみ会館 ほか全国順次公開

  

~唖然、茫然、徐克(ツイ・ハーク)的電影、怪奇大活劇~

 

  10万もの中国水軍艦隊が、海中から出現した謎の黒い影に襲われ、木っ端微塵にされる。ゴジラか、と思わせるような巨大なしっぽに船は真っ二つ、兵士は海の藻くずと消える、一体、彼奴は何物か?。“香港のスピルバーグ”ツイ・ハークが画面にたたきつけたスペクタクルは、謎をはらんで目を釘付けにする。

  台湾・キン・フー監督をはじめとする「武侠映画」のワイヤーアクションにはいつも驚嘆させられてきた。香港の「カンフー映画」、中国の重厚な「歴史映画」…そんな伝統を最新技術を駆使してまとめあげのはツイ・ハーク。そのエネルギッシュな躍動感はすでに本家を超えている。ホンマ「ようやる!」。

  物語も当然、一筋縄ではいかない。時は唐朝末期西暦665年、第3代皇帝・高宗と悪名高い皇后・則天武后(カリーナ・ラウ)。敵国・扶余に送り出した水軍が壊滅したのは“龍王の仕業”に違いないと美しい花魁イン(アンジェラ・ベイビー)を龍神の廟に幽閉する。大理寺(最高裁判所)司法長官ユーチ(ウィリアム・フォン)は、龍王の存在を信じない則天武后から、事件の解明を命じられるが…。

  込み入ったストーリーだが、冒頭の海戦場面からCG満載、ワイヤーアクションにストップモーションをからませたツイ・ハーク魔術の虜。だが、主役登場はこの後。司法長官に協力して謎の解明に当たるのは大理寺にやって来た判事ディー(マーク・チャオ)。ツイ・ハーク党ならすでに承知。前作『王朝の陰謀  判事ディーと人体発火怪奇事件』(10年)で謎めいた事件を鮮やかに解いた“名探偵”の再登場(前作はアンディ・ラウ)。この映画は前日譚になる。

  “人体発火”も不可解だったが、難事件ほど燃えるディー判事、頭の冴えようは中国版シャーロック・ホームズといわれるだけのことはある。今回はアクションも謎もスケールアップ。“怪獣”龍王はじめ、正体不明の半魚人、大群で迫り来る毒バチ、強い毒性を持った呪いの虫「蠱(こ)」は体内に入ると皮膚が鱗になるからおぞましい。びっくりクリーチャーが続々登場するのもツイハーク魔術なのだが、おどろおどろしさの中に、どこかもの悲しさが漂うのが香港・中国の特色だろう。

  ディーが赴任する途中、花魁インを誘拐する一味と遭遇、彼女の救出には成功するが、現れた怪物は取り逃がす。インの話では、怪物の正体は朝廷御用達の茶屋「清心茶房」の御曹司で詩人でもあるという。美女が恋する男がおぞましい姿に変身する悲恋模様も波瀾万丈の物語に彩りを添える。

  製作費32億円を投じた『~謎の鉄の爪』は、興行収入96億円の大ヒットになった。香港・中国映画の本流ともいうべき武侠映画は「実はこのスタイルなら言いたいことが言える」とある監督から聞いた。大唐帝国と現代は1500年も離れているが、権力者の横暴に多くの人々が苦しむ図は、現代にも共通する。近年、お隣の中国ははた目から見ても理不尽、不可解なことが多いように思う。映画人がひと言、物申したのがこの映画ではないか。

  最近、中国ではピーター・チャン監督『捜査官X』(11年)にツイ・ハーク監督の『判事ディー』2本と、武侠映画に理詰めの謎解きを加えて新味を感じさせる。混乱の極みにある社会に、理路整然、合理的な解決を試みる、そんな期待を背負っての大ヒットなら、人民大衆の不満は相当たまっている、と読み取ることも出来そうだ。

 (安永 五郎)

 公式サイト⇒ http://www.u-picc.com/SEADRAGON/

(C)2013 HUAYI BROTHERS MEDIA CORPORATION ALL RIGHTS RESFRVED.

カテゴリ

月別 アーカイブ