制作年・国 | 2014年 日本 |
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上映時間 | 1時間59分 |
原作 | 紡木たく『ホットロード』集英社文庫〈コミック版〉 |
監督 | 三木孝浩 |
出演 | 能年玲奈、登坂広臣 |
公開日、上映劇場 | 2014年8月16日(土)~丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、OSシネマズ神戸ハーバーランド、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都他全国ロードショー |
~能年玲奈の瞳が語る、思春期の感情のひだ~
別冊マーガレットといえば、私の中高時代の愛読少女マンガ雑誌だった。その中でも紡木たくの描く世界観は、まさに尾崎豊の歌の世界観に重なるし、『ホットロード』の春山を見るたびに尾崎豊の姿が脳裏をよぎっていた。映画化にあたって、原作者の紡木たくは主演を託すことができる俳優が現れない限りは了承できないというスタンスだったという。昨年大ヒットの朝ドラマ『あまちゃん』出演以前に和希役が決まっていたという能年玲奈、そして本作で映画デビューを果たす春山役の三代目J SoulBrothers登坂広臣。まさにこの二人のシーンの切なさや純粋さが、この作品の一番の見どころだ。1980年代前半、不良チームブームが去る直前の時代、若者たちは怒りを親にぶつけ、ままならぬ衝動にまかせてバイクを走らせては、ケンカをして暴れていた。携帯もカラオケボックスもない時代のやんちゃな若者たちの姿は、今の同世代にどう映るのかも興味深い。
母(木村佳乃)から愛されておらず、自分の存在の確かさを感じられない14歳の和希(能年玲奈)は、学校でも多くを語らず、孤独に過ごしていた。ある日転校生の友人に誘われるまま不良チームNightsの集まりに連れて行かれた和希は、春山(登坂広臣)と出会う。思うように生きる春山ら不良たちの世界に居場所を見出す和希は、自分を置き去りにして恋人と密会を続ける母のもとを飛び出し、春山のもとに向かうのだったが・・・。
台詞ではなく、佇まいで登場人物の内なる感情を浮かび上がらせる『ホットロード』の世界観を、三木孝浩監督が丁寧に描写。原作同様、映画でも和希の口から出る言葉は本音とは裏腹なぶっきらぼうな言葉ばかりだ。クローズアップされる和希役の能年玲奈の細かな表情や瞳の揺れが、和希の内面の驚きや憤り、悲しさ、そして喜びを全て表現しており、観る者はそれを丹念に感じ取っていく。和希と春山の間に流れる静かな時間を感じとれる、余白を散りばめた演出。私たちはその中で、今ほどせわしなくなかった古き良き時代に身を委ね、バイクで疾走する風を感じながら、朝焼けの海辺を眺めるのだ。
母の女としての部分にも踏み込みながら、春山に走ったきっかけとなる母娘関係や和希の母に対する反抗を容赦なく描いている。娘よりも自分の好きな人を追いかけ、娘と直接向き合おうとしない母の育児放棄とも見える姿は異彩を放つ。当時顕著な思春期ならではの反抗の姿も、本当は母の愛が欲しくてたまらず、「助けて」という強いメッセージが込められていたことを、自分自身も母となった今なら痛いぐらい分かる。そしてそのメッセージを読み取ることが、いかに困難かということも。
悪いことは大概やってきた春山と、純粋すぎて自分も母親も傷つけてしまう和希が不器用ながらも人を本当に愛することで、自分の命を大事にすることを知る。時代を超えて若い世代に伝えるべき、重みのあるメッセージだ。孤独だと思っていた和希と真剣に女性と付き合えなかった春山の生き方をも変える出会いとその行方は、エンディングで流れる尾崎豊の『Oh My Little Girl』のように真っ直ぐで喜びに満ちていた。(江口由美)
公式サイト⇒http://hotroad-movie.jp/
(C) 「ホットロード」製作委員会 (C) 紡木たく / 集英社