カンチョリ オカンがくれた明日
原題 | Kang-chul-i |
---|---|
制作年・国 | 2013年 韓国 |
上映時間 | 1時間48分 |
監督 | アン・グォンテ |
出演 | ユ・アイン、キム・ヘスク、キム・ジョンテ、キム・ソンオ、チョン・ユミ、イ・シオン |
公開日、上映劇場 | 2014年5月17日(土)~シネマート新宿、シネマート心斎橋、T・ジョイ京都 ほか全国順次ロードショー |
~オカンに感謝!子を想う母の情愛に勝るものはない~
韓国映画と言えば「猟奇的な彼女」が真っ先に浮かぶのはすでに古いのか、その後の韓国映画界の活躍はめざましく、復讐もの、悲恋もの、歴史、アクション、サスペンスとジャンルも幅広いが、今作はと言えば、あれこれ程良くブレンドされた見やすい仕上がりとなっている。舞台は「釜山港へ帰れ」(これも古い?)でおなじみの釜山港。釜山といえば海と山、雄大な自然に囲まれた韓国きっての景勝地だが、そこには町を牛耳る裏組織も存在していたようだ・・・。
主人公のカンチョリ(ユ・アイン)は十代のころはやんちゃもしたけれど、今では糖尿病の母スニ(キム・ヘスク)を献身的に支えながら、身を粉にして働くまじめな青年。一緒に悪さをした幼馴染のジョンス(イ・シオン)はそのまま極道の道へ入ったが、二人の友情は変わらず、家族ぐるみの付き合いが続いていた。合併症から認知症も出始めた母親を1日24時間体制で見守る日々、母を救うためには腎臓移植しか道はない、しかしそのためには莫大な費用が必要となる。やむにやまれずカンチョリが取った手段とは?ひょんなことから知り合った旅行者スジ(チョン・ユミ)との未来はあるのか?
カンチョリを演じるユ・アインが光る。少年の面影を残しつつ、ハードボイルドを演じてもはまる。スニが何度、警察の厄介になってもひょうひょうと迎えに行き、風呂屋の煙突に登っても動じない。どんな状況でも冗談を言う強がりが初めて崩れたのは映画の終盤。どこを探しても見つからないスニを血眼になって探し、とうとう探し当てたバスの車内だ。スニと二人、ほとばしる感情をぶつけ合う。このシーンから物語がぐっと深みを増してくる。日本と韓国の裏社会の覇権争いなど陳腐に感じられるシーンもいくつかあって、荒削りな面もあるのだが、後半のここ一番というシーンでみごと逆点した。
つば広の帽子とサングラス姿のスニをサイドカーに乗せ、街なかをバイクで疾走する姿はまるで恋人同士のよう。息子に自分の元を去ってしまった夫の影を見るスニ、とことんそれに応えるカンチョリ。息子は幼い日自分を励まし、叱ってくれた強さを失ってしまった母親を切なく思いながら寄り添っている。しかし、スニにとってそれは無上の歓びなのだ。母親にとって息子は恋人だ。スニのとろけるような笑顔がそれを物語っている。母親がひたむきに愛情を注ぐ時期、息子はまだ幼く、息子が成長した頃、母は老いている。親子は永遠の片想い、二人の歯車がピタリとはまることはない。しかし、それでいいのだ。だからこそ子は巣立ってゆける。息子の男気、母親の母性と恋情、すべてがつまっているから、いくら陳腐なシーンがあろうとも作品の根幹は揺らぐことなく、確かな輝きを放って胸に響くのだろう。
(山口 順子)
公式サイト⇒ http://kangchul-movie.com
©2013 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved