『ダーク・ブラッド』
原題 | Dark Blood |
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制作年・国 | 2012年 アメリカ・イギリス・オランダ |
上映時間 | 1時間26分 |
監督 | 監督:ジョルジュ・シュルイツァー『ザ・バニシング 消失 』『マイセン幻影』 撮影:エドワード・ラックマン |
出演 | リヴァー・フェニックス『スタンド・バイ・ミー』『マイ・プライベート・アイダホ』、ジュディ・デイヴィス『バートン・フィンク』『マリー・アントワネット』、ジョナサン・プライス『未来世紀ブラジル』『エビータ』、カレン・ブラック |
公開日、上映劇場 | 2014年4月26日(土)~東京・ユーロスペース、5月31日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、6月24日(土)~元町映画館、ほか全国順次ロードショー ※東京・名古屋にて、リヴァー・フェニックスのもう一つの遺作!サム・シェパード監督作で劇場初公開の『アメリカンレガシー』と、リヴァー&キアヌ・リーヴスの奇跡の共演『マイ・プライベート・アイダホ』の同時上映決定! |
~リヴァー・フェニックスが体現した“夢の終わり”~
核実験で荒れ果てた砂漠。先住民たちは強制移住させられ、住む人もいない。“死の砂漠”の一軒家に一人住む青年ボーイ(リヴァー・フェニックス)は希望も見い出せない中、“終わりの日”を待っていた…。
「遺作」と知って見ると、これはまるで“予感映画”のようだ。名作『スタンド・バイ・ミー』(86年)やキアヌ・リーヴスと共演した『マイ・プライベート・アイダホ』(91年)で人気の青春スター、リヴァー・フェニックスは1993年10月31日、薬物中毒でハリウッドの路上で倒れ死亡。享年23歳だった。ジェームス・ディーン以来の早すぎる死は世界のファンに衝撃を与えた。奇しくもイタリアの名匠フェデリコ・フェリーニの死去と同じ日だったが、衝撃度はフェニックスの方が大きかった。
当時「撮影中」だった“幻の遺作”がジョルジュ・シュルイツァー監督の執念で完成、公開される。未撮影部分は監督がナレーションでつないだ“不完全版”ではあるが、ファンには夢の実現だろう。
アメリカ政府が先住民を迫害し、核実験を繰り返したアメリカ南西部の砂漠地帯。孤独な青年ボーイ(フェニックス)の前に、倦怠期を迎えたハリウッドの俳優夫婦ハリー(ジョナサン・プライス)とバフィー(ジュディ・デイヴィス)が現れる。高級車ベントレーが砂漠で故障した夫婦にはボーイは救いの神だったが、妻を白血病で亡くした彼にとってもバフィーとの出会いが“神の啓示”だった。
彼女は青年に興味を示し、ボーイもバフィーに魅せられていく。不便な砂漠暮らしにいら立つハリーは一刻も早く隣町に行こうとするが、ボーイが車の修理を始めてしまう。三人の間にはアブない緊張感が生まれ、いても立ってもおれないハリーはついに「歩いていく」と危険もかえりみず、砂漠に飛び出す…。
夭折(ようせつ)したスターは伝説になる。古くは市川雷蔵、フランスのジェラール・フィリップ。端正な二枚目の2人は何度も回顧上映が行われるほど人気を集めている。
近年ではあの松田優作。リドリー・スコット監督『ブラック・レイン』(89年)の鬼気迫る悪役ぶりは凄まじいの一語。飛び降り自殺した香港スター、レスリー・チャンもまた遺作となった『カルマ』(02年)で“飛び降り自殺”した。どんな気持ちで演じたのか、想像を絶するものがある。
彼らの遺作に、この世に残した思いを感じ取るのはファン心理ゆえだろうか。フェニックスの死から20年、遺作『ダーク・ブラッド』は青年フェニックスの孤独の翳りが胸に迫る。これまでの役柄を変えようと挑んだこの映画では、物静かで諦めの境地にありながら、夢の女バフィーの出現で生き返り、狂気じみた愛欲の情に溺れていく。衝撃的なエンディングは“フェニックスの最期”にふさわしい気もする。
アメリカ南西部の砂漠は“西部劇終焉(えん)の地”でもある。過去、西部劇が数多く撮影された。西部劇スターを代表するジョン・ウェインとスティーヴ・マックィーンはともにガンで死亡した。核実験で汚染された砂漠ロケの影響が指摘された。
『ダーク・ブラッド』は西部劇ではないが、死の灰に覆われた砂漠の光景はアメリカの“夢の終わり”を象徴してもいる。ラスト、夫婦が乗った車は、ジョン・フォード監督の名作『駅馬車』などで有名なモニュメントバレー(メサ=岩山)に向かって走る。先住民はすでになく、正義の騎兵隊もいない、荒れ果てた地に待っているのはフェニックスが予感したように、“この世の終わり”の風景に見えた。
(安永 五郎)
※東京・名古屋にて、リヴァー・フェニックスのもう一つの遺作!サム・シェパード監督作で劇場初公開の『アメリカンレガシー』と、リヴァー&キアヌ・リーヴスの奇跡の共演『マイ・プライベート・アイダホ』の同時上映決定!
公式サイト⇒ http://www.dark-blood.com/index.html
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