『グランド・ブダペスト・ホテル』
原題 | THE GRAND BUDAPEST HOTEL |
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制作年・国 | 2013年 イギリス=ドイツ合作 |
上映時間 | 1時間40分 |
監督 | 監督/脚本/製作:ウェス・アンダーソン(『ムーンライズ・キングダム』『ダージリン急行』他) |
出演 | レイフ・ファインズ(伝説のコンシェルジュ)、トニー・レヴォロリ(ベルボーイ)、F・マーレイ・エイブラハム、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、ハーヴェイ・カイテル、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、シアーシャ・ローナン、ジェイソン・シュワルツマン、レア・セドゥ、ティルダ・スウィントン(マダムD)、トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソン |
公開日、上映劇場 | 2014年6月6日(金)~TOHOシネマズシャンテ、新宿シネマカリテ、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、シネ・リーブル神戸 ほか全国ロードショー |
~独特のセンスと世界観で紡ぎだす“おとぎ話×アドベンチャー”の快感~
ウェス・アンダーソン監督が提供してくれるのは、いつもかなり個性的。いわゆる“クセの強い”作品であり、肌が合わなきゃどうしようもないけれど、いったん好きになると、次回作がなんとも楽しみになる。前作『ムーンライズ・キングダム』はある小島に住む少年少女の駆け落ち物語で、オフビートな可笑しさにちょっぴり切なさも絡み合ったものだったが、この新作はヨーロッパの一流ホテルを舞台にした、華やかでミステリアスな要素を感じさせるもの。それでも、やはりアンダーソン監督らしいこだわりが随所に効かせてあって、大いに楽しませてもらった。
お話は、現代、旧ズブロフカ共和国の作家の回想から始まる。「これは私が聞いた話だ。まさに、思いも寄らない展開だった…」。もうこれだけで、胸が騒ぐではないか。そして、作家が若かりし頃に『グランド・ブダペスト・ホテル』の謎めいたオーナーと出会ってその“話”を聞く1960年代と、その話の内容(これが映画の大半を占め、物語の核心となる)が展開される1930年代の三重構造になっていて、しかも、各時代によって、スクリーンサイズを変えるという、まあトコトン徹底主義の職人技のよう。
1932年、グランド・ブダペスト・ホテルには、“伝説のコンシェルジュ”と呼ばれたムッシュ・グスタヴ・Hがいた。細部にまで気配り目配りできて敏腕、しかもハンサムな彼は、女性客への夜のおもてなしも、何食わぬ顔で軽々とこなしちゃう。その彼のもとで、ベルボーイとして働き始めた青年ゼロだが、上得意客の伯爵夫人が殺されたことで、グスタヴ共々、波乱いっぱいの事態に巻き込まれていく。
オーセンティックで壮大なホテルの内観、そのたたずまいにうっとり!造形にこだわる監督の美意識は、おもちゃのような色使いのケーキにもあふれ、実に目を喜ばせてくれる。バラライカなどの楽器を用いたエキゾチックな音楽の使い方は秀逸だし、エンディング・クレジットに登場するカワイイ“踊るオジサン”の遊び心にも惹かれる。それでいて、ナチスをほのめかす演出もあり、ヨーロッパを素材にしたごった煮的な後味。特異な才能を持つ監督は、ひとりの男の一代記を、なんとまあ、おとな向けのおとぎ話に仕立て上げてしまった。豪華な配役陣も見どころ。ティルダ・スウィントンの化けっぷりに驚くと共に、私の大好きな映画『スモーク』で親しみやすい煙草屋の主を演じていたハーヴェイ・カイテルの姿に会えたのも嬉しかった。
(宮田 彩未)
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