映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『レイルウェイ 運命の旅路』

 
       

railway-550.jpg『レイルウェイ  運命の旅路』

       
作品データ
原題 The Railway Man 
制作年・国 2013年 イギリス、オーストラリア 
上映時間 1時間56分
原作 原作:エリック・ローマクス「レイルウェイ 運命の旅路」(角川文庫刊、喜多迅鷹・喜多映介=訳)
監督 ジョナサン・テプリツキー
出演 コリン・ファース、ニコール・キッドマン、ジェレミー・アーヴァイン、ステラン・スカルスガルト、サム・リード、石田淡朗、真田広之
公開日、上映劇場 2014年4月19日(土)~角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都、他全国順次公開

 

~夫婦の破局危機は“クワイ河”の記憶~

 

  初老の“鉄道愛好者”エリック(コリン・ファース)と、離婚経験者パトリシア(ニコール・キッドマン)が列車で同席したことから恋に落ちて結ばれる…落ち着いたロマンス映画風のイントロ、と思ったら、エリックは妻にも言えない秘密を抱えて苦しんでいた。

railway-3.jpg  優しく物腰柔らかいエリックの凍りつくような秘密とは?  彼を愛するパトリシアが過去を探り始める。彼の秘密は、遠いアジアでの捕虜体験、タイからビルマ(現ミャンマー)まで走る「泰緬鉄道」にまつわる忌まわしい記憶だった…。    泰緬鉄道建設を題材にしたデヴィッド・リーン監督『戦場にかける橋』(1957年、原題は「クワイ河にかかる橋」)にまでつながる奥行き深いミステリー・ロマン。エリックは戦争中、シンガポールで無線要員として任務に就いていたが、1942年に日本軍が占領、英国兵は捕虜として収用される。彼らは戦争の状況を知ろうとラジオ作りに着手、無線係のエリックが主導し、密かにため込んだ機材を使って完成。ラジオで連合軍の反撃の様子を知り、捕虜たちを勇気づけるが、日本軍に発覚、首謀者は誰かと聞かれ、エリックが名乗り出る。

  『戦場にかける橋』には今も忘れないシーンがある。英軍捕虜の将校アレック・ギネスが日本兵(早川雪洲)に独房に入れられながら、誇りを失うことなく、毅然とした態度を崩さなかった。学生時代に英国人の魂やプライド、真の愛国心を見た思いがした。

railway-2.jpg  『レイルウェイ~』は、実は『戦場にかける橋』の後日談にして暴露話のようでもある。あんなに毅然としていた英国兵も拷問に苦しみ、その記憶が深い爪痕として残っていた。それほど過酷な拷問だった。エリックは将校ではないが、戦後、捕虜時代のトラウマに苦しみ、妻にさえ心を閉ざしていたのだった。一体、何があったのか?

  彼は「タイからビルマまで鉄道を敷くべき」という考えでそのための地図を書いていた。ラジオに加え、鉄道愛好者ならではの詳細な地図で彼は徹底的に疑われ、過酷極まりない拷問にさらされたのだった。

  パトリシアが在郷軍人会の仲間フィンレイ(ステラン・スカルスガルド)に尋ねると、エリックは若い通訳に連れていかれ、2週間後に帰って来た時には意識はなく、以来、人を避け、何をされたかしゃべらなかったという。

railway-4.jpg  この時、エリックを拷問した永瀬(真田広之)が生きている、とフィンレイから聞かされる。長い間、復讐することを夢見ていたエリックは、ある事件に後押しされ、悪夢の地を一人で訪れ、生き残ってガイドとして働く永瀬と対決する…。  デヴィッド・リーンは中東で活躍した実在の英雄を描く『アラビアのロレンス』(1962年)、ロシア革命を題材にした『ドクトル・ジバゴ』(1965年)の2本の歴史大作で、大地や歴史の中の人間をダイナミックに描く名匠として名高い。そうした最初の作品が泰緬鉄道を描いた『戦場にかける橋』だった。捕虜たちが苦労を重ねて完成した鉄橋を爆破するスリルとスペクタクルはリーン監督の真髄でもあった。

  『レイルウェイ 運命の旅路』には『戦場にかける橋』のような鉄道工事はなく、鉄道も登場しない。直接にはリーン監督とは無関係なのだが、冒頭、エリックとパトリシアが列車内で同席した時、名作『逢びき』に女性ファンがどう反応したか、2人が話すシーンがある。これはデヴィッド・リーンの初期の代表作(1945年)。これがリーン監督へのオマージュに違いなかった。

railway-5.jpg  『レイルウェイ 運命の旅路』はリーン監督のような壮大な歴史ロマンではない。だが、痛切な戦争体験とそれを克服しようとする英国兵の実話の映画化は、決して忘れてはいけない戦争の別の一面を刻みつけた。それは、英国人よりも、憲法解釈や集団的自衛権論議に血道をあげる今の日本人に突き付けられた“戦争の記憶”ではないか。

    (安永 五郎)

 公式サイト⇒ http://www.railway-tabi.jp/

(C)2013 Railway Man Pty Ltd, Railway Man Limited, Screen Queensland Pty Limited, Screen NSW and Screen Australia

カテゴリ

月別 アーカイブ