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『アクト・オブ・キリング』

 
       

AOK-550.jpg『アクト・オブ・キリング』

       
作品データ
原題 The Act of Killing 
制作年・国 2012年 デンマーク、ノルウェイ、イギリス 
上映時間 2時間01分
監督 製作総指揮:エロール・モリス / ヴェルナー・ヘルツォーク / アンドレ・シンガー    製作・監督:ジョシュア・オッペンハイマー  共同監督:クリスティーヌ・シン / 匿名希望
公開日、上映劇場 2014年4月12日(土)~シアター・イメージフォーラム、4月19日(土)~シネマート心斎橋、京都シネマ、近日~元町映画館、ほか全国順次公開

 

~この世で一番恐ろしいもの、それは人間!~

 

 こんなドキュメンタリー、見たことない! 大きな魚の口からカラフルな衣装をまとった女性ダンサーが登場する、一見ミュージカルか?と思えるような幻想的なオープニングシーン。本作は、1965年~66年にかけてインドネシアで密かに行われた大量虐殺事件についてのドキュメンタリー映画である。共産主義者と疑われた数十万人(正確な数字は不明だが、少なくとも50万人以上は犠牲になったと言われる)の人々が虐殺された。

 インドネシア初代大統領のスカルノ大統領(デヴィ夫人の夫)の時にクーデター未遂事件が起こり、それを制圧したのがスハルノ少将(後に2代目大統領となる)だった。クーデターの背後には共産主義者の存在があるとして、西側の援助もあって、共産主義者の排除という軍の指令で、民間人グループが実行したとされる。その頃、ベトナムでは南北に分かれてソ連とアメリカの代理戦争と言われたベトナム戦争が激化しており、その波及を恐れた西側諸国の思惑もあったようだ。

AOK-2.jpg 虐殺を実行した、いわば殺人者たちは、今なお英雄として顔を利かせているというから驚きだ。さらに、今でも共産主義者と疑われる人々への差別や虐待は続いており、このパワーバランスがインドネシアの影のフィクサーと呼ばれる存在を生んでいるという。この事実を取材しようとしたのがアメリカ・テキサス州出身のオッペンハイマー監督だった。
 

AOK-3.jpg 最初は被害者たちの証言を得ようと取材を始めたようだが、圧力がかかり、被害者たちも取材陣にも危険が及びそうになり、断念。そこで取材対象を加害者たちに変え、証言を思わぬ方法で引き出すことに成功する。それは、過去の虐殺の模様を映画化するために加害者たちに再現してもらい、その映画製作の様子をドキュメンタリーとして撮影する。加害者自身が殺戮場面を演じるという前代未聞の映画は、歴史の真実だけではなく、人間の本性や悪の正体、本当の恐怖についてもあぶり出し、かつてない衝撃をもって見る者を震撼させる。

AOK-4.jpg 本作の中心に出てくるのは、北スマトラ州の州都・メダンに住むアンワル・コンゴというヤクザの親分。昔からハリウッド映画が大好きで、特にマーロン・ブランドに憧れたという。白いスーツを颯爽と着こなし、常に子分を引き連れ、自分たちが行った殺人の方法を嬉々として語る。当時は映画館を根城にしていたチンピラ軍団のひとりで、共産主義者と疑われる人々を惨殺していった。そのようなグループは各地にあり、華僑や農民がターゲットになっていたという。中には政治思想とは関係のない人々も多く、彼等のやりたい放題の悪事を重ねていたようで、さぞかし恐怖に支配された地獄のような状況だったのだろう。想像するだけでも鳥肌が立つ。

 今年開催された『第9回大阪アジアン映画祭』で上映されたインドネシア映画『2014』は、現在の大統領選を描いた政治サスペンスだったが、『アクト・オブ・キリング』を見ていたお陰で、影のフィクサーによる恐怖がリアルに伝わってきて、真に迫るものがあった。インドネシアは首都ジャカルタだけを見ると、近代国家として東南アジアの中でも安定した経済成長を見せている。日本企業の進出も多く、またリゾート観光地としても人気がある。とてもこのような史実があったなどと信じがたいが、目を背ける訳にはいかない。

 悪夢にうなされるようになったというアンワル・コンゴに対し、虐殺仲間のアディ・ズルカドリは、後悔の念は全くないと言い張る。現在ジャカルタに住み、本作撮影のため妻子を連れてメダンに帰郷するが、再現映画の撮影の意味をいぶかしく感じているようだった。映画の最後の方で、父親の横で高級ブランド品をショッピングする彼の美しい娘が映される。父親が恐ろしい「殺戮者」だったという事実を、彼女はどう捉えているのだろうか。想像を絶する悪意と残虐性によって凶暴となる、つくづく人間ほど恐ろしいものはない、と実感する映画だ。

(河田 真喜子)

 公式サイト⇒ http://aok-movie.com/

(C)Final Cut for Real Aps, Piraya Film AS and Novaya Zemlya LTD, 2012