『ある過去の行方』
原題 | Le passé |
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制作年・国 | 2013年 フランス・イタリア |
上映時間 | 2時間10分 |
監督 | 監督・脚本:アスガー・ファルハディ |
出演 | ベレニス・ベジョ、タハール・ラヒム、アリ・モッサファ、ポリーヌ・ビュルレ |
公開日、上映劇場 | 2014年4月19日(土)~Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテ、4月26日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他全国順次公開 |
~人生とは,過去と折り合いを付けること~
男が空港に到着し,女が出迎える。2人はガラス壁に隔てられ,円滑に意思が伝わらない。そのもどかしさは,過去がはっきり見えない不安から,過去を断ち切れない焦燥へと連なっていく。アーマドは,4年前にテヘランに戻ったが,マリー=アンヌと正式に離婚するため,かつて暮らしていたパリにやって来た。マリーは,2人の娘リュシーとレアを連れて,サミールとその息子フアッドと新しい生活を始め,サミールの子を妊娠していた。
マリーは,苛立ちを隠せず,不穏な空気を漂わせている。サミールには,洗剤を飲んで植物状態となった,うつ病の妻セリーヌがいた。彼女の自殺未遂は,マリーだけでなく,リュシーにも影を落としている。さらに,サミールはもちろん,彼が営むクリーニング店の従業員ナイマをも苦しめていた。アーマドが現れたことで,彼らの頭上を覆っていたベールが1枚ずつ取り除けられていく。人々の心に闇を作り出した過去の真相に迫っていく。
私が生まれてからママの夫は3人目だと,リュシーが言う。彼女は,安定した基盤を求めて彷徨う母親の姿をじっと見詰めていたに違いない。リュシーは,アーマドに対し,マリーとサミールとのメールをセリーヌに送ったと告白する。もっとも,これが契機となってセリーヌの自殺未遂の原因が明らかになるという,凡庸な展開にはならない。客観的で動かせない過去の出来事であっても,そこに主観が絡むため,人々の認識は一様ではない。
主観が生み出した過去の幻影を振り払う瞬間がやってくる。アーマドが4年前に帰国した理由を話そうとしたとき,マリーは「もう過去は振り返らない」と,過去に囚われないで生きる決意を固める。そのとき,彼女の胎内の子は何も知らないが,リュシーはどこか哀しげな笑みを浮かべている。アーマドはテヘランに戻り,サミールはセリーヌの側に戻る。どこへ向かうにせよ,人々は過去との折り合いを付けながら生きていかねばならない。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://www.thepast-movie.jp/
©Memento Films Production – France 3 Cinéma – Bim Distribuzione – Alvy Distribution – CN3 Productions 2013